北風は1998年,北海道様似郡様似町幌満峡に分布する幌満かんらん岩中の硫化鉱物を研究し,岩石中に,ペントランド鉱:(Fe,Ni)9S8,トロイライト:FeS,ヒーズルウッド鉱:Ni3S2,斑銅鉱,タルナック鉱:Cu9(Fe,Ni)8S16,自然銅の他に,未知の鉱物を3種発見した。それぞれ,1)(Fe,Ni,Co,Cu)9S8,2)Cu(Fe,Ni)8S8,および3)Cu2(Fe,Ni)7S8 の組成を有する。
このうち,2) は苣木浅彦東北大学・山口大学名誉教授に因んでsugakiite(苣木鉱)として,国際鉱物学連合・新鉱物委員会に申請し,2005年に承認された。また,1)と 3)の鉱物も,それぞれ,幌満かんらん岩,様似町に因んで,horomanite(幌満鉱),samaniite(様似鉱)として上記委員会に申請し,2007年新鉱物として承認された。
これらの3鉱物は,密雑に組み合って,かんらん岩(レールゾライト)のかんらん石,単斜輝石,斜方輝石の粒間を充填して,顕微鏡下でのみ認められる。
苣木鉱,ペントランド鉱,トロイライト,ヒーズルウッド鉱,自然銅などの鉱物はしばしば単独粒としても産する。
EPMAによる分析の結果,苣木鉱の理想式はCu(Fe,Ni)8S8と決定された。結晶学的データは正方晶系,空間群P42/mnm, 格子定数 a=10.566,c= 9.749 A, 配位数 Z = 4である。
同様に,幌満鉱の化学式は(Fe5.77Ni3.12Co0.07Cu0.05)9.01S8.00で,正方晶系,空間群P42/mnm, 格子定数a= 10.566, c= 7.749A,配位数Z=4である。
また,様似鉱の化学式はCu2(Fe,Ni)7S8で表され,正方晶系,空間群P42/mnm,格子定数a=10.089, c=10.402A, 配位数Z=4である。
以上の苣木鉱,幌満鉱および様似鉱は金属:硫黄の比が9:8であり,ペントランド鉱(Fe,Ni)9S8と同じ原子比を有し,これらの鉱物はペントランド鉱族鉱物と考えられる。幌満かんらん岩から産出したこれらの鉱物の物理・化学的データを下表に示している。
ペントランド鉱 | 幌満鉱 | 苣木鉱 | 様似鉱 | |
---|---|---|---|---|
結晶系 | 立法 | 正方 | 正方 | 正方 |
空間群 | Fm3m | P4/mmm | P42/mnm | P42/mnm |
組成式 | Fe4.5Ni4.5S8 | (Fe,Ni,Co,Cu)9S8 | Cu(Fe,Ni)8S8 | Cu2(Fe,Ni)7S8 |
格子定数 | ||||
a(A) | 10.038(1) | 8.707(1) | 10.566(5) | 10.019(1) |
c(A) | 10.442(6) | 9.749(8) | 10.400(1) | |
V(A3) | 1011.4(3) | 791.4(4) | 1088.4(14) | 1058.9(2) |
c/a | 5.07 | 1.1994 6.45 |
0.9227 4.76 |
1.0306 4.89 |
密度(g/cm3)) | 5.07 | 6.45 | 4.76 | 4.89 |
硬度(kg/cm3) | 140-150 | 125-145 | 130-170 | 120-140 |
反射率(%) | ||||
波長 | ||||
436 nm | 38.4 | 34.7-37.8 | 25.6-31.9 | 27.1-29.6 |
497 nm | 44.1 | 40.0-43.2 | 29.9-36.1 | 34.4-37.9 |
546 nm | 47.3 | 43.2-46.4 | 33.2-39.1 | 38.9-43.6 |
586 nm | 49.5 | 45.4-48.5 | 36.1-41.5 | 44.9-49.8 |
648 nm | 51.9 | 47.8-50.7 | 39.3-44.3 | 42.2-46.9 |
これら三種の鉱物に相当する鉱物は現時点では,この産地のみでしか,発見されていません。現在,幌満峡付近は日本の「アポイ岳ジオパーク」に認定され,サンプルの採取は制限されている。
なお,北風は苣木鉱の発見により2009年桜井賞を受賞した。
(文責:北風嵐)