苣木ら(1984)は北海道恵庭市盤尻にある光竜鉱山の鉱床を研究中,高品位金銀鉱石の石英晶洞中にアグイラ鉱(Ag4SeS),ポリバス鉱((Ag,Cu)16Sb2S11)-ピアス鉱((Ag,Cu)16As2S11)系鉱物,濃紅銀鉱 (Ag3SbS3)-淡紅銀鉱(Ag3AsS3),未知Ag-Sb-As-S系の硫塩鉱物を発見した。
EPMAで化学組成を測定し,X線単結晶・粉末法で結晶学的データを求めて,国際鉱物学連合,新鉱物委員会に新鉱物“光竜鉱”として申請したが,結晶構造を明らかにしないと,新鉱物として認められないと却下された。
その後,この鉱物と同じものが,ペルーのSan Genoa鉱山から発見され,結晶構造解析がなされ,新鉱物baumstakite(バウムスターク鉱)として,2001年認可された。幻の鉱物名“光竜鉱”となった鉱物であり,日本では最初に発見されたものである。
上記の各種鉱物は3号・-60m レベルの鉱石の晶洞中に自形結晶として産するが,バウムスターク鉱は非常に稀にしか認められない。
石英晶洞中に上記の鉱物と供に0.5~1mm大の短柱状の銀灰色で,金属光沢を有する自形結晶として産する。普通双晶をなしている。
バウムスターク鉱は反射顕微鏡下で明るい青味を帯びた灰色から明るい褐色味をおびた白色に変化する中程度の多色性を呈し(下図A),異方性は非常に強く黄褐色から青灰色まで変化する(下図B)。
反射電子線像(図C)では鉱物内に若干の濃淡が認められるが,これはAsの含有量の違いに基づくものである。
EPMA分析値は下表のようで,Sbの一部がAsにより置換され,固溶体を形成していることが分る。
産地 | 光竜鉱山 | San Genaro鉱山 | |||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | A | B | C | ||
重量% | Ag | 37.3 | 37.3 | 37.8 | 37.6 | 37.6 | 37.9 | 38.0 | 38.4 | 38.4 | 36.5 | 38.3 | 37.4 |
Sb | 38.3 | 38.1 | 36.6 | 36.6 | 35.7 | 34.2 | 33.4 | 32.8 | 30.8 | 40.2 | 27.9 | 33.1 | |
As | 1.9 | 2.3 | 3.3 | 3.6 | 4.4 | 5.2 | 5.8 | 6.7 | 7.4 | 0.7 | 10.1 | 6.2 | |
S | 22.1 | 22.0 | 22.4 | 22.4 | 22.4 | 22.6 | 22.5 | 22.8 | 22.9 | 22.0 | 23.1 | 22.6 | |
Total | 99.6 | 99.7 | 100.1 | 100.2 | 100.1 | 99.9 | 99.7 | 100.7 | 99.5 | 99.4 | 99.4 | 99.3 |
A, B, C: San Genaro mine, A:matrix (average), B:lamellae 1, C: lamellae 2 (After Effenberger et al., 2002)
ギニエカメラを用いてX線粉末回折データを得,Effenberger et al.(2002)のデータを基に指数付けを行い,格子定数を求めた。結果は下表のようであった。
産地 | 光竜鉱山 | San Genaro鉱山 | |
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化学組成 | Ag2.99Sb2.70As0.31S6 | Ag3Sb2.934As0.040Bi0.026S6 | |
格子定数 | a(A) | 7.778(1) | 7.766(2) |
b(A) | 8.326(1) | 8.322(2) | |
c(A) | 8.814(1) | 8.814(2) | |
α | 100.90(1) | 100.62(2) | |
β | 104.01(1) | 104.03(2) | |
γ | 90.06(1) | 90.22(2) | |
V(A3) | 543.2(1) | 542 |
*After Effenberger et al.(2002)
(文責:北風嵐)