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【日本新産・稀産鉱物】 兵庫県生野鉱山産Cu-Bi硫塩鉱物

 兵庫県生野鉱山産Cu-Bi硫塩鉱物についてEPMAで検討し,自然蒼鉛,輝蒼鉛鉱と密接に組み合ってkupcikite,cuprobismutiteおよびhodrushiteを見出したので簡単に記述する。
 これら三者の反射顕微鏡下での識別は非常に難しいが,kupcikiteはcuprobismutiteに比し,僅かにピンク色味を帯びている。(下図参照)

自然蒼鉛(Bi)と共生するkupcikite(kpc)とcuprobismutite(cpb)の反射顕微鏡写真(左:オープンニコル,右:クロスニコル)
自然蒼鉛(Bi)と共生するkupcikite(kpc)とcuprobismutite(cpb)の反射顕微鏡写真
(左:オープンニコル,右:クロスニコル)

 普通kupcikiteは粒状結晶の集合であるが,cuprobismutiteはkupcikiteの一部を交代しており,それを被覆するように晶出している。しばしば短柱状の自形結晶を呈している。Hodrushiteはkupcikiteを交代して,少量認められる。
 EPMAの反射電子線像でkupcikiteとcuprobismutiteの識別は容易であるが(下図参照),kupcikiteとhodrushiteとの識別は容易では無い。

Cu-Bi硫塩鉱物を含む場所全体の反射電子線像。Bi:自然蒼鉛,kpc: kupcikite,cpb:cuprobismutite。
Cu-Bi硫塩鉱物を含む場所全体の反射電子線像。
Bi:自然蒼鉛,kpc: kupcikite,cpb:cuprobismutite。

 上図の一部の拡大写真は下図の様である。

Bi:自然蒼鉛,bm:輝蒼鉛鉱,kpc:kupcikite,cpb:cuprobismutite,hdr:hodrushite。
Bi:自然蒼鉛,bm:輝蒼鉛鉱,kpc:kupcikite,cpb:cuprobismutite,hdr:hodrushite。

 これらのCu-Bi硫塩鉱物についてEPMAで分析した。結果は下表のようで,kupcikiteのCu含有量は10.02~14.82wt%と変化し,固溶体を形成していることが分かった。 またcuprobismutiteのそれは15.17~16.53%と僅かに変化している。一方hodrushiteの組成はほとんど組成差は認められなかった。それぞれの代表的な分析値を下表に示している。

生野鉱山産kupcikiteのEPMA分析値
生野鉱山産kupcikiteのEPMA分析値
生野鉱山産cuprobismutiteのEPMA分析値
生野鉱山産cuprobismutiteのEPMA分析値
生野鉱山産hodrushiteのEPMA分析値
生野鉱山産hodrushiteのEPMA分析値

 各鉱物の(Fe+Ag):Cu:Biの原子比(%)を示せば下図のようである。

生野鉱山産Cu-Bi硫塩鉱物の(Fe+Ag):Cu;Bi比(%)
生野鉱山産Cu-Bi硫塩鉱物の(Fe+Ag):Cu;Bi比(%)

 Hodrushiteの組成はほぼ一点に集中しており,平均の組成式は(Cu7.91,Fe0.08Ag0.07)8.06Bi11.96(S21.94,Se0.04)21.98(N=10)と,その理想式Cu8Bi12S22とほぼ一致している。 Cuprobismutiteの組成式は(Cu9.71,Fe0.37,Ag0.01)10.08(Bi11.91,As0.04)11.95(S22.83,Se0.14)22.97(N=60)で,その理想式Cu10Bi12S23とほぼ一致するが,常に微量なFeを含んでいる。 またkupcikiteのCu:Bi比は変化し,固溶体を形成しているが,平均値はCu3.51(Fe0.29Ag0.05)0.34(Bi5.42,As0.01)5.43(S9.98,Se0.12)10.10と理想式Cu3.4Fe0.6Bi5S10に近い。
 Kupcikiteは北風・苣木(1972)および苣木ほか(1972)らが乾式合成し,その後Sugaki et al.(1981, 1984)による熱水合成で見出された合成相で,その安定領域の検討から天然における産出が予想されていたものであり,その後Topa et al.(2003)により天然での産出が発見された鉱物である。我が国では岡山県三原鉱山(田中ほか,2007)や山形県大張鉱山(Izumino et al.2014)からも産出が報告されているが,世界的に見ても比較的稀な鉱物である。
 CuprobismutiteはSugaki et al.(1980)によればCu2S-Bi2S3系の合成実験によれば316℃以下で不安定な鉱物とされているが,天然産cuprobismutiteは微量のFeやAgを含んでいるため,より低温でも安定相として表れていると思われる。Hodruthiteの安定領域は現在の所不明である。  Sugaki et al.(1980)によれば,300℃でkupcikite-Biの共生は確認されているが,合成相E(CuBi3S5,230℃以上で安定)の存在により,kupcikite-輝蒼鉛鉱組み合わせは認められていない。生野鉱山産試料で認められるkupcikite-輝蒼鉛鉱組み合わせは230℃以下で生じたものと推定される。

 天然において上記kupcikiteの自形結晶はまだ見出されていないが,熱水合成実験(Sugaki et al., 1980)では自形結晶が得られている。下図に熱水合成で合成したkupcikiteの結晶とcuprobismutiteの結晶を比較して掲げている。

熱水合成で得たkupcikite(A)とcuprobismutite(B)の結晶
熱水合成で得たkupcikite(A)とcuprobismutite(B)の結晶

 上図から解るようにkupcikiteは短柱状結晶に比し,cuprobismutiteは針状結晶に近い。
 本報告に用いた試料は安澤人志氏より標本館にご寄贈頂いたもので,記して感謝致します。

 【参考文献】
 Izumino, Y., Nakasima, K. & Nagasima, M.(2014)Cuprobismutite group minerals(cuprobismutite, hodrushite, kupcikite and paderaite), other Bi-sulfosalts and Bi-tellurides from the Obari mine, Yamagata Prefecture, Japan. Jour. Miner. Petrol. Sci. 109, 177-190.
 北風 嵐・苣木浅彦(1972)EPMAによる新合成硫化物相の組成に関する研究(要旨)。岩石鉱物鉱床学会誌,67,104-105.
 田中崇裕,小林祥一,皆川哲雄(2007)岡山県三原鉱山産kupcikite様鉱物及びikunolite(要旨)。日本鉱物学会・日本岩石鉱物鉱床学会学術講演会要旨集,218.
 Sugaki, A., Kitakaze, A. & Hayashi, K. (1981) Synsesis of minerals in the Cu-Fe-Bi-S system under hydrothermal condition and their phase relations. Bull. Miner., 104, 484-495.
 Sigaki, A., Kitakaze, A. & Hayasi, K.(1984) Hydrothermal synsesis and phase relations of the polymetallic sulfide system, especially on the Cu-Fe-B-S system. In Material Science of the Erath’s Interior, Ed. I. Sunagawa, pp.545-583, Terra Scientific Publishing Comp., Tokyo.
 苣木浅彦・北風 嵐・山本哲朗(1972)Cu-Fe-Bi-S系の相平衡(Ⅱ)-特にwittichenite-chalcopyrite系について(要旨)。岩石鉱物鉱床学会誌,67,105.
 Sugaki, A., Shima, H. & Kitakaze, A. (1980) The phase equilibrium of the system Cu-Bi-S below 400℃, especially the relation emplectite and cuprobismutite, In Proc. 9’s IMA meeting 1978, sulphosalts, platinum minerals and ore microscopy volume, pp.100-109.
 Topa, D., Makovicky, E., Balic-Zunic, T. & Paar, E. (2003) Kuppcikite, Cu3.4Fe0.6Bi5S10, a new Cu-Bi sulfosalts from Felbertal, Austria, and its crystal structure. Canada. Miner., 41, 1155-1166.

(文責:北風嵐)