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【日本新産・稀産鉱物】 岡山県伊茂岡鉱山産三原鉱について

 岡山県苫田郡鏡野町奥津の伊茂岡鉱山から三原鉱が産出することは苣木ほか(1975,1976)にすでに報告されている。
 原産地の岡山県三原鉱山産三原鉱の詳細な研究データはSugaki et al.(1980)が報告しているが,伊茂岡鉱山産のものはまだ未公表であったが,北風ほか(2012)が三原鉱山産のものと比較して詳細に研究している。
伊茂岡鉱山に関する詳細な報告は無いが,鉱床は花崗岩中の銅・ビスマスに富んだ石英脈と報告されている。この鉱山からビスマスを含む鉱物が産出する事は古くから知られ,研究されてきている。しかし近代的な手法で研究されているのはウィチヘン鉱およびエンプレクト鉱のみである(苣木ほか,1976)。
伊茂岡鉱山産鉱石鉱物として斑銅鉱および黄銅鉱の他,ウィチヘン鉱,三原鉱,エンプレクト鉱,エイキン鉱および自然蒼鉛などのビスマス鉱物が産する(苣木ほか, 1976)。その他,方鉛鉱,四面銅鉱,閃亜鉛鉱などの鉱石鉱物も認められる。 三原鉱は普通黄銅鉱葉片を持つ斑銅鉱と密接に組み合って産する(下図A,B)。しばしはウィチヘン鉱を伴う(下図C)。

三原鉱の反射顕微鏡写真。A:黄銅鉱葉片(Cp)を持つ斑銅鉱(Bn)と組み合う三原鉱(Mh)
三原鉱の反射顕微鏡写真。A:黄銅鉱葉片(Cp)を持つ斑銅鉱(Bn)と組み合う三原鉱(Mh)
三原鉱の反射顕微鏡写真。B:黄銅鉱葉片(Cp)を持つ斑銅鉱(Bn)と組み合う三原鉱(Mh)
三原鉱の反射顕微鏡写真。B:黄銅鉱葉片(Cp)を持つ斑銅鉱(Bn)と組み合う三原鉱(Mh)
三原鉱の反射顕微鏡写真。C:ウィチヘン鉱(Wit)と組み合う三原鉱(平行ニコル)
三原鉱の反射顕微鏡写真。C:ウィチヘン鉱(Wit)と組み合う三原鉱(平行ニコル)
三原鉱の反射顕微鏡写真。D:同じ視野の直交ニコル
三原鉱の反射顕微鏡写真。D:同じ視野の直交ニコル

 三原鉱とウィチヘン鉱とは平行ニコル下ではほとんど識別できないが,注意深く見ればウィチヘン鉱の方がわずかに明るい(C)。直交ニコル下ではウィチヘン鉱の方が異方性が強く,細かい結晶粒の集合であることがわかるり,比較的容易に識別できる(D)。  EPMAを用いて化学分析を,またX線粉末回折データより求めた,伊茂岡および三原両鉱山産三原鉱の結晶学データは下表のようである。

伊茂岡および三原両鉱山産三原鉱およびウィチヘン鉱の結晶学データ
鉱物名 三原鉱 三原鉱 ウィチヘン鉱
産地 伊茂岡鉱山 三原鉱山 伊茂岡鉱山
化学組成 Cu4.00Fe1.00Pb1.00Bi1.00S4.00 Cu4.09Fe1.00Pb1.01Bi1.00S5.91 Cu3.01Bi1.00S2.99
結晶系 斜方 斜方 斜方鉱
空間群 Pbmm Pbmm P212121
格子定数 a(Å) 10.870(3) 10.859(3) 7.701(3)
b(Å) 11.970(3) 11.991(3) 10.363(4)
c(Å) 3.868(1) 3.870(1) 6.705(2)
V(Å3 503.2(2) 503.9(2) 535.1(4)
密度(g/cm3)   6.09   6.19
calc   6.08 6.09 6.19
  Z 2 2 4

この表には比較のため伊茂岡鉱山産ウィチヘン鉱もデータも示している。 これらの鉱物を含む鉱石の加熱実験結果,まず斑銅鉱固溶体から葉片状黄銅鉱が離溶し,ほぼ250°以下の温度で斑銅鉱と黄銅鉱葉片の間の斑銅鉱を交代して三原鉱が生成したものと推察される。三原鉱の周囲を囲むようにウィチヘン鉱が認められることから,ウィチヘン鉱は三原鉱生成後に晶出したと推定される(北風ほか 2012)。

  • 北風嵐, 伊藤洋典, 小松隆一(2012):"岡山県伊茂岡鉱山産三原鉱とその熱的安定性について", 東北アジア研究(投稿中).
  • 苣木浅彦, 島敞史, 北風 嵐(1975):"岡山県三原鉱山産Cu-Fe-Pb-Bi-S鉱物について(演旨)", 日本鉱物学会年会講演要旨集,1975,35-35.
  • 苣木浅彦, 島敞史, 北風嵐, 桜井欽一(1976):"三原鉱(Miharaite)の岡山県伊茂岡鉱山における新産出について(演旨)", 日本鉱山地質学会・日本岩石鉱物鉱床学会・日本鉱物学会連合学術講演会講演要旨集,1976,138-138.
  • Sugaki, A. & Shima, H. & Kitakaze, A.(1980):Miharaite, Cu4FePbBiS6, a new mineral from the Mihara mine, Okayama, Japan, American Mineralogist,65, 784-788.

(文責:北風嵐)