古遠部鉱は秋田県古遠部鉱山から発見された(Cu,Ag)6PbS4組成の新鉱物である(Sugaki et. al., 1981)。秋田県釈迦内鉱山では既に古遠部鉱に相当すると思われるCu-Ag-Pb-S系鉱物の産出が報告されていた(宮崎ほか1978)。その後,この鉱物がSugaki et. al.(1981)により古遠部鉱であると同定されている。古遠部鉱はその後,オーストリア,Erasmus鉱山(Paar & Chen, 1986)やナミビア,Tsumeb鉱山 (Anthony et. al., 1990)などからも見出されている。普通不規則な粒状結晶として産するが,Tsumeb鉱山産の古遠部鉱は,四面銅鉱に随伴して石英晶洞中に自形の針状結晶として産出している。
しかし,古遠部鉱山産以外の古遠部鉱はEPMAの分析結果のみで,その他の物理・化学的データは得られていない。
古遠部鉱は釈迦内鉱山第11鉱体の最上部斑銅鉱質黒鉱鉱石から産出したものである。
研究に用いた鉱石試料(#03066,#03067)は第11鉱体480号鉱体325mLで産出した斑銅鉱質黒鉱で,肉眼的に閃亜鉛鉱,方鉛鉱,黄銅鉱,黄鉄鉱,四面砒銅鉱および斑銅鉱が認められる。
古遠部鉱は鏡下のみで認められ,50~100μm大の不規則な粒状として輝銀銅鉱や方輝銅鉱を密接に伴って産し,方鉛鉱(A, #03066)や斑銅鉱,閃亜鉛鉱,方輝銅鉱(B, #03067)と緻密・複雑に組み合う。 釈迦内,古遠部,ErasmusおよびTsumeb各鉱山産古遠部鉱のEPMA分析値の平均値を下表に掲げている。
釈迦内鉱山 | 釈迦内鉱山 | 釈迦内鉱山 | 古遠部鉱山 | Erasumus | Tsumeb | |
宮崎ほか | Sugaki et. al. | Paar & Chen | Anthony et. al. | |||
(#03066) | (#03067) | (1978) | (1981) | (1986) | (1990) | |
重量 % | ||||||
Cu | 41.27 | 41.55 | 41.87 | 40.4 | 40.2 | 42.4 |
Ag | 15.00 | 14.28 | 14.64 | 15.7 | 16.0 | 13.9 |
Fe | - | - | - | - | 0.1 | - |
Pb | 27.47 | 26.97 | 27.44 | 26.6 | 27.2 | 27.6 |
Bi | - | - | - | - | 1.0 | - |
S | 16.82 | 16.87 | 16.71 | 16.8 | 16.0 | 16.0 |
Total | 100.56 | 99.67 | 100.66 | 99.5 | 100.5 | 99.9 |
古遠部およびErasmus鉱山産のものは他の鉱山産のものに比べて,若干含銀量が高く,逆に銅量は低い。このことから銀と銅がお互いに置換していることが分かった。また鉛の量はほぼ一定で銀や銅とは置換していない。
釈迦内鉱山産古遠部鉱の結晶学的データを下表に,古遠部鉱山産古遠部鉱のそれと比較して示している。
産地 | 釈迦内鉱山(#03066) | 古遠部鉱山 | |
化学組成 | (Cu4.95Ag1.05)6.00Pb1.01S3.99 | (Cu4.88Ag1.12)6.00Pb0.99S4.02 | |
結晶系 | 単斜 | 単斜 | |
空間群 | C2/m, Cm, C2 | C2/m, Cm, C2 | |
格子定数 | a(Å) | 19.982(8) | 20.023(9) |
b(Å) | 3.959(1) | 3.960(2) | |
c(Å) | 9.702(4) | 9.700(4) | |
β(°) | 101.53(4) | 101.47(4) | |
V(Å3) | 751.9(5) | 753.8(5) |
釈迦内鉱山産の古遠部鉱のa軸長は古遠部産のものに比し,若干短いが,bおよびc軸長,およびβ角は誤差の範囲内で一致している。釈迦内産のもののa軸長が短いのは含銀量が少なく,銅に富む事より,銀と銅のイオン半径の違いを反映しているものと考えられる。
(文責:北風嵐)