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【日本新産・稀産鉱物】 秋田県古遠部鉱山産含砒素レニエル鉱について

 秋田県古遠部鉱山産黒鉱鉱石を研究中,東又沢鉱体の鉱石中に見出された含砒素レニエル鉱について記述する。
レニエル鉱:(Cu,Zn)11(Ge,As)2Fe4S16は希元素のゲルマニウム(Ge)を含む硫化鉱物である。日本でゲルマニウムを含む鉱物としてレニエル鉱,アージロ鉱(Ag8GeS6)やゲルマン鉱(Cu26Fe4Ge4S22)などが見出されている。古遠部鉱山より発見されたレニエル鉱は世界的に例の無い砒素に富むものである(林ほか,1985)。
  それによるとレニエル鉱が見出された東又沢鉱体は古遠部鉱山の北部に位置する鉱体である。小田島(1983)によれば西方に分布する礫状鉱体と,東方に分布する珪鉱,黄鉱,黒鉱及び鉄石英からなる層状鉱床とから構成されている。レニエル鉱はこの鉱体の5L(-6.0m)地並,E5.8,N5.5付近より産する礫状鉱石から見出されている。

古遠部鉱山東又沢鉱体の坑内図(1983)
古遠部鉱山東又沢鉱体の坑内図(1983)
レニエル鉱が発見された鉱石の採取場所(6(-6.0m)L 平面図)
レニエル鉱が発見された鉱石の採取場所(6(-6.0m)L 平面図)
レニエル鉱が産出した鉱石の採取場所の坑内写真
レニエル鉱が産出した鉱石の採取場所の坑内写真

 レニエル鉱を含む鉱石の採取場所は上図の様な層状構造を示している。鉱石は径5cm大の礫状鉱石で,黄鉄鉱を主とする粉状黄鉱と緻密な黒鉱よりなり,レニエル鉱は黄鉱と黒鉱との境界近くに産する塊状緻密な黄鉱質鉱石に含まれている。この鉱石は大部分細粒黄鉄鉱の集合よりなるが,部分的に黄鉄鉱の粒間を充填する砒四面銅鉱の不規則状細脈が見られ,この部分にレニエル鉱が見出される。本鉱石の写真は下図に示している。

レニエル鉱を含む鉱石(#17640)
レニエル鉱を含む鉱石(#17640)

 この鉱石は反射顕微鏡下で径0.2mm程度の自形乃至半自形の黄鉄鉱に富み,黄鉄鉱粒間を砒四面銅鉱が充填している。この砒四面銅鉱は斑銅鉱,黄銅鉱,方鉛鉱及び少量の閃亜鉛鉱を随伴している。砒四面銅鉱中にはごくまれに硫砒銅鉱が認められる。
 レニエル鉱は最大30μm,普通5~10μmの粒状を呈し,砒四面銅鉱および斑銅鉱と密接に共生している。レニエル鉱はこれらのうちごく限られた部分のみに認められる。その反射顕微鏡写真は下図の様で,斑銅鉱あるいは砒四面銅鉱中に包有されている。時には両者と共生して産するが,まれに方鉛鉱あるいは黄銅鉱と接して認められる。

レニエル鉱を含む鉱石の反射顕微鏡写真。rn:レニエル鉱,bn:斑銅鉱,ten:砒四面銅鉱,cp:黄銅鉱,py:黄鉄鉱
レニエル鉱を含む鉱石の反射顕微鏡写真。
rn:レニエル鉱,bn:斑銅鉱,ten:砒四面銅鉱,cp:黄銅鉱,py:黄鉄鉱

 X線回折データをガンドルフィカメラを用いて得た。それから求めた格子定数は下記の様である。表には比較のため他産地のデータも示している。

レニエル鉱の結晶学的データ
  含砒素レニエル鉱 含砒素レニエル鉱 レニエル鉱 レニエル鉱
産地 古遠部鉱山(#17640) Jamesostown Tsumebu Tsumebu
  林ほか(1985) Bernstein(1986) Bernstein(1986) Bernstein et al.(1986)
結晶系   正方 正方 正方 正方
格子定数 a(Å) 10.570(1) 10.580(10) 10.625(1) 10.625(1)
  c(Å) 10.567(1) 10.501(13) 10.549(2) 10.5506(8)
  V(Å3) 1180.6(2) 1175.3(27) 1190.9(3) 1190.52(5)

 レニエル鉱はゲルマニウムと砒素が置換しており,砒素に富むレニエル鉱の格子定数はゲルマニウムに富むものに比して小さい。これはゲルマニウムと砒素のイオン半径に基づくものと考えられる。また砒素含有量が多くなるとa軸長と c軸長がほとんど等しくなり,等軸晶系に近くなる。
   古遠部鉱山から産出したレニエル鉱のEPMA分析値を下表に示している。

古遠部鉱山産レニエル鉱のEPMA分析値
産地 1 2 3 4 5 6 7 平均値
重量%
Cu 44.5 44.6 44.3 44.7 44.4 44.6 44.4 44.5
Zn 0.4 0.7 0.5 0.6 0.4 0.4 0.4 0.5
Ge 3.5 4.1 4.2 4.3 4.3 4.3 4.4 4.2
Sn 0.3 0.3 0.3 0.4 0.4 0.3 0.3 0.3
As 4.8 4.9 4.8 4.9 4.9 4.9 4.8 4.9
Fe 13.6 13.0 13.7 13.1 13.2 13.5 13.5 13.4
S 33.0 32.8 32.8 32.6 32.7 32.9 32.5 32.8
Total 100.1 100.4 100.6 100.6 100.3 100.9 100.3 100.5
原子%
Cu 33.4 33.6 33.2 33.7 33.5 33.4 33.5 33.5
Zu 0.3 0.5 0.4 0.4 0.3 0.3 0.3 0.4
Ge 2.3 2.7 2.8 2.8 2.8 2.8 2.9 2.7
Sn 0.1 0.1 0.1 0.2 0.1 0.1 0.1 0.1
As 3.1 3.1 3.1 3.1 3.1 3.1 3.1 3.1
Fe 11.6 11.1 11.7 11.2 11.3 11.5 11.6 11.4
S 49.1 48.9 48.7 48.6 48.8 48.8 48.5 48.8

 表の原子%の値から明らかなように,砒素含有量はゲルマニウムに比して多い。他産地のEPMA分析値と比較して,下表に掲げている。

古遠部鉱山産レニエル鉱組成の他産地との比較
  砒素レニエル鉱 砒素レニエル鉱 砒素レニエル鉱 レニエル鉱 亜鉛レニエル鉱 レニエル鉱 レニエル鉱
  古遠部1) 釈迦内2) Jamestown3) Kipushi3) Tsumeb3) Ruby Creek3) Rajpura-Darba4)
重量%
Cu 44.5 44.41 43.77 40.92 41.26 41.12 40.54
Zn 0.5 1.2 0.65 2.94 3.09 2.5 2.92
Ge 4.2 4.74 5 8.02 7.97 7.34 7.71
W 0 0 0 0.11 0.02 0.15 0
Sn 0.3 0 0 0 0 0 0
As 4.9 4.1 3.8 0.9 0.87 1.09 1.28
Sb 0 0 0.12 0.04 0.02 0.67 0
V 0 0 0.01 0.06 0.06 0.07 0.11
Fe 13.4 12.91 14.55 13.99 14.29 14.17 14.46
Ga 0 0 0 0.18 0.09 0.04 0
S 32.8 32.79 32.59 32.19 32.4 32.42 32.61
Total 100.6 100.15 100.49 99.35 100.07 99.57 99.63
総原子数=33
Cu 11.02 11.03 10.84 10.26 10.27 10.3 10.1
Zn 0.12 0.29 0.16 0.72 0.75 0.61 0.71
Ge 0.91 1.03 1.08 1.76 1.74 1.61 1.68
W 0 0 0 0.01 0 0.01 0
Sn 0.04 0 0 0 0 0 0
As 1.03 0.86 0.8 0.19 0.18 0.23 0.27
Sb 0 0 0.02 0.01 0 0.09 0
V 0 0 0 0.02 0.02 0.02 0.03
Fe 3.78 3.65 4.1 3.99 4.05 4.04 4.1
Ga 0 0 0 0.04 0.02 0.01 0
S 16.1 16.14 16 16 15.98 16.09 16.11
1)林ほか(1985),2)宮崎ほか(1978),3)Bernstein(1986), 4)Mozgova et al.(1992)

 表から分かるように古遠部鉱山産レニエル鉱の化学組成は釈迦内鉱山産ものに比較して,わずかであるが鉄にやや富み,亜鉛およびゲルマニウムに乏しいが,両者はほぼ類似の値を示している。砒素含有量は釈迦内鉱山およびJamesotown産のものに比しても多く,もっとも砒素に富む組成である。総原子数を33とした値も上表に示しているが,(Cu+Zn): Ge+As):Fe::S比は全体的に見てほぼ11:2:4:16と理想式に近い。
   上記資料は基本的には林ほか(1986)に基づくが,文責者の責任において修正している。

  • Bernstein, L.R.(1986)Renierite, Cu10ZnGe2Fe4S16-Cu11GeAsFe4S16: a coupled solid solution series. Amer. Mineral., 71, 210-221.
  • Bernstein, L.R., Reichel, D.G. & Merlino, S.(1989)Renierite crystal structure refined from Reitvels analysis of powder netron-diffraction data. Amer. Mineral., 74, 1177-1181.
  • 林 謙一郎・菊谷 正・苣木浅彦(1985)秋田県古遠部鉱山産含砒素レニエ鉱。岩鉱誌,80,451-458。
  • 宮崎敏男・加藤邦明・飯田幸平(1978)釈迦内鉱山第11鉱体の産状。鉱山地質,28,151-162.
  • Mozgova, N.N., Borodaev, Yu.S., Nenasheva, S.N., Efimov, A.V., Gandhi, S.M. & Mookherjee, A.(1992)Rare minerals from Rajpura-Dariba, Rajasthan, India. Ⅶ:renierite. Mineral. Petrol., 46, 55-65.
  • 小田島吉次(1983)古遠部鉱山における衛生鉱体の探鉱。鉱山地質,33,201-212.

(文責:北風嵐)