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【日本新産・稀産鉱物】 北海道豊羽鉱山産ティール鉱について

 ティール鉱(PbSnS2)は北海道豊羽鉱山より日本新産鉱物として資料館関係者により発見され,その産状,鉱物学的性質などについてはすでに報告されている(苣木・林:1986)。 それによると,ティール鉱は豊羽鉱山東部の石英と黄鉄鉱を主とし,硫砒鉄鉱,閃亜鉛鉱や少量の錫石および黄錫鉱を伴う空知上盤𨫤(幅約3m,-450~-650mL)を切る細脈中に認められている。 この細脈はウルツ鉱,閃亜鉛鉱及び方鉛鉱を主とし,黄鉄鉱,白鉄鉱,硫砒鉄鉱,黄銅鉱,黄錫鉱,ティール鉱,赤錫鉱(rhodostannite)などを随伴するとされている。 ティール鉱は細脈のほぼ中央部の晶洞中に単独あるいは方鉛鉱,ときに閃亜鉛鉱を伴い湾曲した葉片状ないし薄板状の結晶あるいはその集合として産している(下図参照)。
 元記載の試料を用い,若干の追加研究を行ったのでその結果について記述する。

豊羽鉱山産ティール鉱の実体写真。A:葉片状結晶,B:実体顕微鏡写真
豊羽鉱山産ティール鉱の実体写真。A:葉片状結晶,B:実体顕微鏡写真

 反射顕微鏡下でティール鉱は単独にあるいはその集合として産する(下図参照)。この鉱物は白色を呈し,方鉛鉱より僅かに明るく,弱い多色性を示すことから識別できる。また中程度の異方性を示す。 普通,単独粒やそれらの集合で,方鉛鉱と密接に共生し,時に錫含有硫化鉱物,白鉄鉱,繊維亜鉛鉱などに密接に随伴する。

ティール鉱の反射顕微鏡写真。A:平板状結晶,B:湾曲した結晶
ティール鉱の反射顕微鏡写真。A:平板状結晶,B:湾曲した結晶

 ギニエカメラを用いてティール鉱の粉末X線回折結果を得,それらの値より最少二乗法で格子定数を求めた。その結果をいくつかの研究結果と比較して下表に示している。

豊羽鉱山産ティール鉱の格子定数
産地 Monserrat Carquaycollo 豊羽鉱山 合成
文献 Beryy &
Thompson
(1962)
Hofmann
(1935)
苣木・林 (1986) Hayashi et al.(2001) 本レポート Mosburg el al.(1961) Hayashi et al.(2001) 本レポート
組成(モル% SnS) 50.0 43.9* 48.4* 50.0 50.0 50.0
a(Å) 4.29 4.28 4.254 4.261 4.265 4.266 4.265 4.265
b(Å) 11.35 11.33 11.447 11.442 11.43 11.419 11.431 11.430
c(Å) 4.05 4.04 4.103 4.103 4.094 4.090 4.093 4.094

 豊羽鉱山産ティール鉱の反射電子線像は下の写真ようで,湾曲した結晶の集合がしばしば認められる(A)。これは結晶が軟らかく容易に変形するためと思われる。 また,結晶内部で濃淡が認められ,同一結晶でも場所によって若干組成が変化していることがうかがえる(B)。しかし,累帯構造は認められない。

ティール鉱の反射顕微鏡写真。A:湾曲した結晶の集合,B:薄板状結晶
ティール鉱の反射電子線像。A:湾曲した結晶の集合,B:薄板状結晶

 EPMA分析結果は下表のようでPb,SnおよびSを主とし,微量のCu,Ag,FeおよびZnが含まれているが,Inは未検出であった。

豊羽鉱山空知上盤産ティール鉱のEPMA分析値
1 2 3 4 5 6 7 8 9
重量% Pb 58.07 57.10 55.59 55.59 54.54 54.00 48.72 47.44 43.48
Cu 0.55 0.48 0.38 0.54 0.73 0.32 0.35 0.25 0.36
Ag 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.48 0.48 0.00
Fe 0.23 0.47 0.49 0.32 0.30 0.44 0.33 0.37 0.54
Zn 0.43 0.40 1.13 0.71 0.64 0.56 0.30 0.26 0.38
Sn 23.82 25.15 25.48 26.04 26.74 27.38 32.29 34.12 36.96
In 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
S 16.16 16.34 16.62 16.68 16.63 16.57 17.13 17.05 17.58
Total 99.26 99.94 99.69 99.88 99.58 99.27 99.60 99.97 99.30
原子比
(総原子数=4)
Pb 1.116 1.082 1.039 1.039 1.018 1.013 0.886 0.858 0.770
Cu 0.034 0.030 0.023 0.033 0.044 0.020 0.021 0.015 0.021
Ag 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.018 0.018 0.000
Fe 0.016 0.033 0.034 0.022 0.021 0.031 0.022 0.025 0.035
Zn 0.026 0.024 0.067 0.042 0.038 0.033 0.017 0.015 0.021
Sn 0.799 0.832 0.831 0.850 0.872 0.896 1.025 1.078 1.142
In 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
S 2.007 2.000 2.006 2.014 2.007 2.008 2.012 1.993 2.011
モル% SnS 41.7 43.5 44.4 45.0 46.1 46.9 53.6 55.7 59.7

 苣木・林(1986)によると豊羽鉱山産ティール鉱の組成は43.2~44.5モル%SnSの範囲の固溶体を持つとされていたが,今回の分析値では41.7~59.7モル%SnSとより広い固溶体をなしていることが分かった。 また,最もSnS含有量の低い値は方鉛鉱と接するもので41.7%であり,300℃で熱水合成し,方鉛鉱と共生するティール鉱の値(43.0%;Hayashi et al., 2001)より小さく,彼らの与えたソルバスから考察すれば,豊羽産ティール鉱は300℃以下の温度で晶出したと考えられる。
 ティール鉱と共生して含錫鉱物としていくつかの鉱物が認められたが,これらについては別に記載する。

  • Berry, L. G. and Thompson, R. M. (1962), X-ray powder data for ore minerals. Geol. Soc. Amer. Memoir, No. 85, 75.
  • Hayashi, K., Kitakaze, A. & Sugaki, A.(2001) A re-examination of herzenbergite-teallite solid solution at temperatures between 300 and 700℃. Miner. Mag., 65, 645-651.
  • Hofmann, W. (1935), Ergebnisse der Strukturbes-timmung komplexer Sulfide. I, Die Struktur von Zinnsulfur SnS and Teallit PbSnS2. Zeit. Krist., A92, 161-173.
  • Mosburg, S. M., Ross, D. R., Bethke, P. M. and Toulmin, P. (1961), X-ray powder data for herzenbergite, teallite and tin trisulfide. U. S. G. S. Prof. Paper, 424-C, C347-C348.
  • 苣木浅彦,林 健一郎(1986)北海道豊羽鉱山産teallite.岩石鉱物鉱床学会誌,81,393-398.

(文責:北風嵐)