北海道豊羽鉱山の東部鉱脈群の空知下盤𨫤を切る細脈中にティール鉱が産出することは知られており(ティール鉱の化学組成や結晶学的データは,このHP上既に記述している),これと密接に共生して赤錫鉱:Cu2FeSn3S8や黄錫鉱:Cu2(Fe,Zn)SnS4が産出することは既に報告されている(苣木・林,1986)。これらの二種の鉱物について彼らの試料と同一のものを用いてEPMAにより再検討を行ったのでので,その結果について記述する。
黄錫鉱は閃亜鉛鉱,黄鉄鉱,繊維亜鉛鉱や黄銅鉱と組み合って、ティール鉱に随伴して産する(下図A)。また,赤錫鉱は黄錫鉱中に粒状を呈して含まれ,少量認められた(下図B)。両者の識別は反射顕微鏡下では比較的難しい。また赤錫鉱の鏡下での性質は元記載とは若干異なるが,化学組成はほとんど変わらないので,ここでは赤錫鉱とした。
反射電子線像(下図)では赤錫鉱と黄錫鉱と者の識別は比較的容易である。黄錫鉱は閃亜鉛鉱とリズミックな累帯をしている(下図B)。
赤錫鉱は我が国では豊羽鉱山(苣木・林,1986、Yajima et al., 1991)のほか別子鉱山での産出(Kase, 1988)が知られているが,世界的に見ても非常に産出の稀な鉱物である。
赤錫鉱のEPMA分析値は下表のようである。
これらの分析値の平均は(Cu1.83Ag0.05)1.88(Fe0.98Zn0.22)1.20(Sn2.91In0.04)2.95S7.98と理想式Cu2FeSn3S8に近い。 微量のInを含んでおり,林・苣木(1986)の値に近いが,今回得られたZn含有量は0.17~3.87重量%と若干変化している。
赤錫鉱を随伴する黄錫鉱のEPMA分析値は下表のようで,In量は僅かである。
この鉱物の組成は分析場所により著しくCu, Fe, Zn量が変化しているが累帯構造は認められない。(Cu+Ag)vs(Fe+Zn)の関係は下図のようで,(Cu+Ag)と(Fe,Zn)との置換関係が認められ、黄錫鉱の置換関係(Cuは一定で,FeとZnとの置換)とは異なり,別種の鉱物とも考えられる。
これらの分析結果から考えると桜井鉱:(Cu,Zn,Fe)3(In,Sn)S4のSnに富む鉱物と考えられるが、この点更に検討して行く必要がある(これに相当する鉱物は現在まで報告例は無い)。
(文責:北風嵐)