剣岳鉱山は福井県あわら市清滝に位置する浅熱水鉱脈鉱床で,金・銀・硫化鉱物,石英,重晶石,硫酸鉛鉱などに随伴してPb-Sb-As系硫塩鉱物(ジオクロン鉱,ヨルダン鉱,ブーランジェ鉱,ロビンソン鉱,ジンケン鉱など)が産出することが報告されている(山田ほか,2014)。
今回,山田ほかが記載したと同一産地の鉛に富む試料についてEPMAで再検討した。その結果ジオクロン鉱-ヨルダン鉱固溶体,ブーランジェ鉱,マドック鉱,メネギニ鉱を見出したので以下簡単に記述する。
ジオクロン鉱やブーランジェ鉱は石英晶洞中に自形結晶として普遍的に産する。
試料の一部を樹脂に埋め込み、研磨片を作成した。ジオクロン鉱を含む場所の反射電子線像は下図のようである。
ジオクロン鉱を交代するマドック鉱も認められた。ジオクロン鉱,マドック鉱およびメネギニ鉱は反射顕微鏡下の性質が非常に類似し,ほとんど識別は出来なく,EPMA分析値から鉱物の区別が可能であった。以下それぞれの鉱物のEPMA分析結果を掲げている。
表から明らかなようにAs:Sb量はほぼ連続的に変化しており,この固溶体の組成はPb14(As,Sb)6S23をほぼ満足している。As>Sb相がヨルダン鉱と,Sb>As相がジオクロン鉱とされている。
ブーランジェ鉱の組成は微量のAsを含むが理想式Pb5(Sb)4S11をほぼ満足しており、僅かにAsを含む固溶体を形成している。
稀に方鉛鉱を交代するメネギニ鉱やマドック鉱(下図左),ジオクロン鉱と組み合うマドック鉱(下図右)も認められた。
マドック鉱の組成は理想式Pb17(Sb As)16S41をほぼ満足している。まだマドック鉱の理想式のSb:As=12.5:4.5で,これらの鉱物のEPMA分析値をPbS-As2S3-Sb2S3三角ダイアグラムに示せば下図の様である。
図から明らかなようにジオクロン鉱はヨルダン鉱とほぼ連続的の固溶体を形成している。一方ブーランジェ鉱およびマドック鉱はほとんど固溶体を形成せず理想式に近い組成に集中している。
メネギニ鉱の理想式はPb13CuSb7S24であるが,剣岳鉱山産のものはCuの一部をAgが,Sbの一部をAsが置換し,その量比も若干変化し固溶体を形成しているがPb: Cu+Ag): Sb+As):S比はほぼ理想式に近い。
剣岳鉱山におけるPb-As-Sb硫塩鉱物の鉱物組み合わせは下図のようで,方鉛鉱‐ジオクロン鉱‐ブーランジェ鉱組み合わせと(赤線),方鉛鉱‐ジオクロン鉱‐マドック鉱組み合わせ(青線)が認められた。
方鉛鉱‐マドック鉱の共生はジオクロン鉱固溶体を切り,一見矛盾している様にも見られるが,晶洞中にはジオクロン鉱とブーランジェ鉱両者が自形結晶として認められることより,安定的な共生関係にあったと推察される。 マドック鉱はジオクロン鉱の一部を交代して認められる事から,前者の晶出後の交代作用により方鉛鉱‐ジオクロン鉱‐マドック鉱組み合わせが生じたものと考えられる。山田ほか(2014)は鉱脈の上部ではよりSbの多いロビンソン鉱やジンケン鉱などが産出すると記載していることからも,後期にSbに富んだ鉱化作用があったと考えられる。従ってSbに富むマドック鉱がジオクロン鉱を交代する作用は十分説明できる。
また,この様な鉱化作用は周囲の母岩にも影響を及ぼし,一部の黄鉄鉱の周辺部をAsが置換しているものも認められる。
表中1~5がAsに富むリムの分析値で,リムでは2.7~4.6wt%のAsを含んでいる。分析値から一見AsはFeを置換している様に考えられるが,今後の問題である。
本報告に用いた試料は橋本成弘氏により展示試料館に寄贈されたものです。記して感謝いたします。
【参考文献】
橋本成弘,山田隆,小菅康寛,藤原由輝,西田勝一,石橋隆,藤原卓,松原聡(2015)福井県剣岳鉱山産ジオクロン鉱。鉱物科学会2014年会 講演要旨(R1-P21),p64。