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【山口県産鉱物】 山口県岩国市祖生鉱山産含錫硫化鉱物について

 祖生鉱山は山口県岩国市周東町祖生に位置し,黒雲母片岩を貫く広島型花崗岩中の銅・タングステン・石英脈鉱床である。一部の鉱脈では細脈,網状,不規則塊状に銅に富む部分があり,黄銅鉱,斑銅鉱,四面銅鉱,硫砒鉄鉱,輝水鉛鉱などが産する。これらに随伴して含錫硫化鉱物の黄錫鉱(Cu2FeSnS4),褐錫鉱(stannoidite: Cu8Fe3Sn2S12)およびモースン鉱(mawsonite; Cu6Fe2SnS8)などが産出する。
 ここでは主に錫硫化鉱物の黄錫鉱,褐錫鉱およびモースン鉱の産状や化学組成について記述する。鉱石は主に斑銅鉱に富むもの(#17834)と,主に黄銅鉱に富むもの(#10323)とがある。斑銅鉱に富む鉱石は斑銅鉱に随伴して黄銅鉱,ウィチヘン鉱が認められ,稀に斑銅鉱を交代する葉片状黄銅鉱がみられる。
 黄銅鉱質鉱石は黄銅鉱中に粒状を呈する四面銅鉱,黄錫鉱,褐錫鉱,モーソン鉱が認められ,少量の輝水鉛鉱,ヘッス鉱,硫砒鉄鉱,ヘドレイ鉱などを随伴する。黄錫鉱は普通黄銅鉱中に粒状結晶として四面銅鉱に伴われて産する。褐錫鉱は黄銅鉱中に粒状をなして散在し,モーソン鉱と密接に共生し,しばしばモーソン鉱の周囲を取り囲んで認められる(下図参照)。

黄銅鉱中に見られる褐錫鉱およびモースン鉱の産状
黄銅鉱中に見られる褐錫鉱およびモースン鉱の産状
A:四面銅鉱(tet)と共生する黄銅鉱(cp)中の褐錫鉱(stnn)とモースン鉱(maw),B:四面銅鉱(tet)と共生する黄銅鉱(cp)中のモースン鉱(maw)の周囲を取り囲む褐錫鉱(stann),hes:ヘッス鉱,C:黄銅鉱(cp)中に散在する褐錫鉱(stnn)とモースン鉱(maw),D:黄銅鉱(cp)中に見られるモースン鉱(maw)と褐錫鉱(stnn)共生。

 黄錫鉱のEPMA分析値は下表の様で,Znは2.59~3.25重量%とその含有量は僅かに変化している。

黄錫鉱のEPMA分析値
  1 2 3 4 5 平均値
重量%
Cu 26.38 26.48 26.56 27.66 27.85 26.99
Zn 3.25 3.19 3.08 2.55 2.25 2.86
Fe 12.85 13.05 12.83 12.85 12.75 12.87
Sn 27.39 27.58 27.62 27.85 27.93 27.67
S 29.85 29.75 29.61 29.58 29.65 29.69
Total 99.72 100.05 99.7 100.49 100.43 100.08
原子%
Cu 22.36 22.41 22.58 23.38 23.55 22.85
Zn 2.69 2.64 2.56 2.1 1.86 2.37
Fe 12.39 12.57 12.41 12.36 12.27 12.4
Sn 12.43 12.5 12.57 12.6 12.64 12.55
S 50.13 49.89 49.88 49.55 49.68 49.83
原子比(総原子数=8)
Cu 1.79 1.79 1.81 1.87 1.88 1.83
Zn 0.22 0.21 0.2 0.17 0.15 0.19
Fe 0.99 1.01 0.99 0.99 0.98 0.99
Sn 0.99 1 1.01 1.01 1.01 1
S 4.01 3.99 3.99 3.96 3.97 3.99

 分析値の平均は(Cu1.83Zn0.19)2.02Fe0.99Sn1.00S3.99とその理想式に近く,Cuの一部はZnに置換されているものと考えられる。
 また褐錫鉱の組成は下表のようであり,粒子による組成差は僅かであり,常に3.50~4.83重量%のZnを含有している。

褐錫鉱のEPMA分析値
  1 2 3 4 5 6 7 平均値
重量%
Cu 37.4 38.11 38.24 38.38 38.39 38.5 38.62 38.23
Fe 9.96 10.37 9.93 9.36 9.18 10.47 10.43 9.96
Zn 4.53 4.15 4.4 4.83 4.49 3.5 3.83 4.25
Sn 18.17 18.35 18.4 18.25 18.64 18.35 18.54 18.39
S 29.36 29.75 29.59 29.58 28.96 29.65 29.89 29.54
Total 99.42 100.73 100.56 100.4 99.66 100.47 101.31 100.36
原子%
Cu 63.546 63.546 63.546 63.546 63.546 63.546 63.546 63.55
Cu 30.89 31.05 31.26 31.42 31.83 31.45 31.3 31.31
Fe 9.36 9.61 9.24 8.72 8.66 9.73 9.62 9.28
Zn 3.65 3.3 3.51 3.86 3.64 2.79 3.03 3.4
Sn 8.03 8 8.05 8 8.28 8.03 8.04 8.06
S 48.06 48.03 47.94 48 47.59 48 48.01 47.95
原子比(総原子数=25)
Cu 7.72 7.76 7.81 7.86 7.96 7.86 7.82 7.83
Fe 2.34 2.4 2.31 2.18 2.17 2.43 2.4 2.32
Zn 0.91 0.83 0.88 0.97 0.91 0.7 0.76 0.85
Sn 2.01 2 2.01 2 2.07 2.01 2.01 2.02
S 12.01 12.01 11.98 12 11.9 12 12 11.99

 褐錫鉱の理想式はCu8Fe3Sn2S12であるが,CuおよびFeの一部をZnが置換した組成である。それを考慮すると,平均値は(Cu7.83,Zn0.17)8.00(Fe2.32,Zn0.68)3.00Sn2.02S11.99となり,理想式の原子比をほぼ満足する。
 また,モースン鉱のEPMA分析値を下表に示している。

モースン鉱のEPMA分析値
   1 2 3 4 5 6 7 平均値
重量%
Cu 40.37 40.66 40.85 42.43 42.88 43.35 43.56 42.01
Ag 0 0 0 0 0.13 0 0 0.02
Zn 2.12 4.4 4.4 0.59 0.72 0.22 0.11 1.79
Fe 14.23 11.87 11.87 13.45 13.2 13.8 13.35 13.11
Sn 13.66 13.59 13.59 13.58 13.52 13.89 13.56 13.63
S 29.65 29.48 29.38 29.49 29.65 29.89 29.56 29.59
Total 100.03 100 100.09 99.54 100.1 101.15 100.14 100.15
原子% 0
Cu 32.37 32.75 32.9 34.21 34.39 34.42 34.93 33.71
Ag 0 0 0 0 0.06 0 0 0.01
Zn 1.66 3.46 3.46 0.46 0.56 0.17 0.09 1.41
Fe 12.98 10.88 10.88 12.34 12.05 12.47 12.18 11.97
Sn 5.86 5.86 5.86 5.86 5.81 5.9 5.82 0
S 47.12 47.05 46.9 47.12 47.13 47.04 46.98 47.05
原子比(総原子数=17) 0
Cu 5.5 5.57 5.59 5.82 5.85 5.85 5.94 5.73
Ag 0 0 0 0 0.01 0 0 0
Zn 0.28 0.59 0.59 0.08 0.1 0.03 0.01 0.24
Fe 2.21 1.85 1.85 2.1 2.05 2.12 2.07 2.03
Sn 1 1 1 1 0.99 1 0.99 1
S 8.01 8 7.97 8.01 8.01 8 7.99 8

 モースン鉱は0.11~4.40重量%のZnを含有している。Znの量は変化しているが,あえて平均値を求めると,表に掲げた値になる。その組成式は(Cu5.80,Zn0.20)6.00Fe2.00Sn0.99S8.00となり,理想式Cu6Fe2Sn2S8にほぼ一致する。モースン鉱のZn含有量は褐錫鉱に比し,低い。
 祖生鉱山から錫を含む鉱物として黄錫鉱,褐錫鉱およびモーソン鉱が認められ,分析の結果,それぞれ(Cu1.83Zn0.19)2.00Fe0.99Sn1.00S3.99,(Cu7.83,Zn0.17)8.00(Fe2.32Zn0.68)3.00Sn2.02S11.99および(Cu5.80,Zn0.20)6.00 Fe2.00Sn0.99S8.00の化学式となり,三者ともその理想式と良く一致している。褐錫鉱は一見モースン鉱の周囲を取り囲んで交代して生成しているように見えるが,褐錫鉱の方がモースン鉱より,亜鉛に富み,またモースン鉱が直接黄銅鉱と接しており,モースン鉱の生成後褐錫鉱が晶出したものと推察される。

  • 北風 嵐,伊東洋典,小松隆一,渋谷五郎(2012)岩国市祖生鉱山産鉱物の研究(Ⅰ)特に鉱石鉱物について。山口地学会誌,69,7-14.

(分責:北風嵐)