祖生鉱山の位置,鉱床の概略および初生鉱石鉱物の詳細について既に報告している(北風ほか,2012)。この鉱石中に日本では産出の稀なビスマスの珪酸塩鉱物である珪蒼鉛石(Bi4Si8O12)を見出した。本邦においては比較的稀な鉱物で,その産出は大分県木浦鉱山夏木谷(上原,1982),鹿児島県梅渓鉱山(浦島ほか,1985),福島県高ノ倉鉱山(松原,P.C.),埼玉県大滝村中津(清田・松山,2001)などが知られている。祖生鉱山からの産出の報告は無い。今回その産状や物理・化学的性質について明らかにしたので報告する。
珪蒼鉛石を含む部分の反射顕微鏡写真を下図に,その反射電子線像を図2に示している。鏡下で珪蒼鉛石は硫化鉱物に比し,暗く,硫化鉱物で無いと明瞭にわかる。それは斑銅鉱の空隙や割れ目,斑銅鉱と石英の粒間を充填した他形結晶として認められる。
斑銅鉱と接する場合には,その境界部に銅藍様鉱物が認められる(図1A)。一部内部反射(褐色)も認められる(図1B)。珪蒼鉛石は薄板状結晶の積み重なった組織を呈し,斑銅鉱の割れ目に見られ(図1A,図2A),その組織は反射電子線像で明瞭である(図2A)。また,一部石英の表面を薄く覆っても認められる(図2B)。斑銅鉱を細脈状に交代している銅藍様鉱物中にも産する(図2B)。
以上の観察結果から珪蒼鉛石は二次的な銅藍様鉱物生成後の最末期に,二次的に生成したものと推察される。
EPMAで測定した祖生鉱山産珪蒼鉛石のEPMA分析結果は下表の様で,Bi,Si,O以外Cu,Fe,As,Fなどが検出された。分析値(平均値)の組成式は(Bi3.60Cu0.14Fe0.19As0.07)4.00Si3.00(O11.21F0.80)12.00で,微量成分を考慮すると,珪蒼鉛石の理想式Bi4Si3O12と良く一致している。
EPMAによる定量分析結果の一部を下表に示している。
祖生鉱山から蛍石が産出する事は知られており,珪蒼鉛石中にもフッ素が取り込まれたと考えられる。またBi,Cu,Fe,Asなどの元素もそれらを含む硫化鉱物(ウィチヘン鉱,斑銅鉱,黄銅鉱,四面銅鉱など)の二次的溶解により,珪蒼鉛石に含まれたものと予想される。
本邦産珪蒼鉛石の正確なEPMA分析値はまだ報告されておらず,これらの値が初めてである。中津産の珪蒼鉛石の分析値は参考値に留まっている。
研磨片から珪蒼鉛石をピックアップして,ガンドルフィ・カメラで粉末回折データを得た。結果を中津産および合成物と比較して下表に示している。格子定数は今まで報告された指数を参考にして,最小自乗法で計算して求めた。他のデータも表に示したデータから同じように求めた。
祖生鉱山産試料は合成物(a=10.2914Å)や中津産のもの(a=10.3105Å)より若干長い(a=10.3112Å)。これは組成の違いを反映しているものと考えられる。
ビスマスの珪酸塩鉱物として本邦での産出の稀な珪蒼鉛石を二次鉱物として祖生鉱山から見出し,その含有元素の全分析を行った。その結果,組成式(Bi3.60Cu0.14Fe0.19As0.07)4.00Si3.00(O11.21F0.80)12.00の値を得た。酸素の一部を置換してフッ素が含まれており,他の産地のとは若干組成が異なる。
酸素を置換してフッ素が含まれている影響で格子定数がフッ素の含まれていないものに比し,若干長い。
(文責:北風嵐)