八茎鉱山は福島県いわき市四倉町の北部に位置する,スカルン鉱床で銅,鉄およびタングステン鉱石を産する。銅,鉄鉱体の採掘終了後,石灰岩直下の熱水変質を受けた単斜輝石スカルン帯中に本邦のスカルン鉱床としては稀に見る高品位のタングステン鉱石(灰重石の鉱染)が発見され,これを稼行対象として採掘されていた。この灰重石とその鉱化作用については既に研究されている(苣木ほか,1988)。その灰重石に特殊な組織が認められたので,それについて記述する。
灰重石鉱染帯の産状は下図の様に石灰岩とスカルン帯と境界部に発達し,熱水変質を受けた単斜輝石スカルン帯中に鉱染状あるいは灰重石・石英からなる細脈として認められる。
その様子は下図の鉱石で明瞭である。
八茎鉱山産灰重石をミネラライト(紫外線)で照射すれば,普通青色~白色の蛍光を発するが,黄色味を帯びるものもあり,このような部分はタングステンをモリブデンが置換していると考えられる。また透過顕微鏡下で単一結晶であっても(下図参照),
カソードルミネッセンス像の観察ではモリブデンの濃度の差による累帯構造が一般にみられる。下図のように青色の蛍光を発するものが灰重石結晶の周辺部を縁取り(A),時には細脈として結晶内部に侵入し,貫いている(B)。
上図の様な組織は非常に稀で余り報告例は少ない。このような現象から灰重石の鉱化作用は少なくとも二度あり,最初にモリブデンに富む灰重石が晶出し,のち純粋な灰重石が生成したものと推察される。
灰重石のモリブデン量を知るため,各鉱体より産する灰重石についてEPMA分析を行った。青色くを発するものは0.5モル%CaMoO4以下の組成で,ほとんど純粋な灰重石である。黄色味を発するものは最大10.1%CaMoO4を固溶している。
各鉱体における分析値の頻度を下図に示している。第一鉱体深部から産出した灰重石は比較的モリブデンに富んでいる。
八茎鉱山産灰重石の多くは青色乃至白色の蛍光を発するが,なかには黄色味を帯びるものもある。灰重石のモリブデン含有量は,青色の蛍光を発するものの場合,0.5モル%CaMoO4以下で,ほとんど純粋な灰重石であるが,黄色味の蛍光を発するものは最大10.1モル%の%CaMoO4を固溶している。青色味の蛍光を発する部分と黄色味の蛍光を発する部分の境界は比較的明瞭で連続的には変化していない。両者は少し異なった環境で生成し,特殊な組織を形成したものと考えられる。
(文責:北風嵐)