マグマ鉱床

【正マグマ鉱床】
 マグマ(岩漿)が地球内部(上部マントルや地殻)で生じ,上昇してマグマ溜りで冷却,固結して火成岩になるとき,クロム,鉄,チタン,ニッケル,銅,白金などの有用金属が濃集して鉱床をつくる。その鉱床を正マグマ鉱床という。正マグマ鉱床での有用元素の濃集は次のような現象によって生じると考えられている。

Ⅰ)マグマの固結(晶出)開始前に起きる現象

ロシア,ノノリスク Ⅰ 鉱床の断面図
ロシア,ノノリスク Ⅰ 鉱床の断面図

 マグマがゆっくり冷えるとき,マグマの成分によっては,ある温度以下で,融体(液体)のまま2相に分離することがある(不混和現象)。例えば,水と油が分かれるように,マグマ本体の珪酸塩融体から,ニッケル,銅,鉄などに富む金属硫化物融体が分離し,マグマの底部に濃集して鉱床を形成している。世界の大規模なニッケル・銅・白金鉱床であるロシア,ノリリスク鉱床,カナダ,サッドベリー鉱床,北欧フィンランドやスウェーデンなどの鉱床はこのタイプの鉱床である。
 ロシア,ノリリスク鉱床の地質断面図は上図の様で,ニッケル・銅に富む鉱石は火成岩岩体の底部に濃集している様子が良く理解できる。この鉱石中には白金も含まれており,大規模な白金鉱床でもある。

 また,大規模な正マグマ鉱床のサッドベリー銅・ニッケル鉱床はその起源が普通のマグマ起源とは異なり,18億5000万年前(古原生代)に隕石が衝突し,地殻や上部マントルが溶融し,大規模なマグマが発生し,マグマや隕石中に含まれていたニッケル・銅などが硫化物溶融体としてマグマの底部に層状に沈積し,その後の浸食により,鉱床が地表近くに現れたものである。(下左図参照)

カナダ,サッドベリー地方の地質図
カナダ,サッドベリー地方の地質図
カナダ,サッドベリー地域ニッケル・銅鉱石の発見された場所とその記念碑
カナダ,サッドベリー地域ニッケル・
銅鉱石の発見された場所とその記念碑

 サッドベリーの鉱床はカナダ太平洋鉄道の建設中に見つかった鉱床で,その発見地点は記念碑として残されている(右上図)。発見時には露天掘りであったが,現在では坑内掘りを主体としている(1990年当時)。

カナダ,サッドベリー地域カッパー・クリフ鉱山の立抗
カナダ,サッドベリー地域
カッパー・クリフ鉱山の立抗
フィンランド,コタラチ・<br>ニッケル・銅鉱山の露天掘り
フィンランド,コタラチ・
ニッケル・銅鉱山の露天掘り

Ⅱ)マグマから鉱物が晶出する途中で起こる現象

  • 1)比重の差による分離,濃集(重力分化)
    • a)初期に晶出した重い鉱物,例えばクロム鉄鉱が重力によりマグマ溜りの底に沈積する場合。(例:クロム鉱床)
    • b)初期に軽い鉱物が晶出し,残ったマグマが金属に富めば,マグマは重くなり,マグマ溜りの底へ沈降し,鉱物は浮いて上部に移動。(例:鉄,チタン鉱床)
  • 2)マグマの流動による液と鉱物の動きの違いで両者がたがいに分離,濃集
    • 熱対流による場合。(例:クロム鉱床)
    • 貫入運動による場合。(例:ニッケル・銅鉱床,鉄鉱床,チタン鉱床)
  • 3)初期に晶出した鉱物が沈積し,残ったマグマが外圧により絞り出され,晶出した鉱物と分離,濃集 (例:ニッケル・銅鉱床,鉄鉱床,チタン鉱床)

マグマ分化の図解

マグマ分化の図解
マグマ分化の図解

  • 1)早期マグマ分化
    • E1:マグマが既存の岩石と接する部分aが急冷され固結する(急冷周縁相aの形成)。マグマ中早期晶出の鉱物ができ始める。
    • E2:そのうち重い鉱物cが沈み,マグマ溜りの底(急冷周縁相a)の上面に集まる(濃集の開始)。
    • E3:次第に晶出する鉱物が増え,下底に沈んだ鉱物c(例えばクロム鉄鉱)も層をつくるように増加する。
  • 2)晩期マグマ分化
    • L1:E1と同じように比較的早期晶出の鉱物aができ始める。
    • L2:底に沈んだ早期の鉱物c(例えばクロム鉄鉱)が堆積し層を形成する。c層の上部にはすでに晶出した鉱物bと,その間を満たした酸化鉄に富む残液とがある。もし,このままの状態で冷却固結すれば,上部相は酸化鉄鉱(磁鉄鉱)で鉱染された岩石(鉱物bの集合)となり,鉄品位低く鉱石にならない。
    • L3:重い酸化鉄に富んだ残液がさらに沈降して鉱物c層の上に集まり,それより軽い鉱物bは次第に上部に浮き上がる。その結果酸化鉄に富んだ残液dの層が鉱物c層の上部にできる。
    • L4:最終的にマグマは重い早期鉱物(クロム鉄鉱)の濃集したc層,酸化鉄鉱(磁鉄鉱)の濃集したd層に分離(分化)され,鉱床ができる。この場合互の境界は整合的である。
  • 3)晩期マグマの変形(圧力)分化
    • L2a:マグマが固結する前のL2の状態で,例えばマグマ溜りが図のような圧力により変形されれば,結晶bの間隙にあった残液(酸化鉄に富む)dが絞り出されて,マグマ溜り内部の他の相,あいはマグマ溜りの外側の他の岩石中に貫入固結し,酸化鉄鉱床を形成する。その境界は他の岩相とは非整合的である。
    • L3a-4a:L3及びL4の状態で上下に圧縮されれば,残液dは,図のようにほぼ整合に近い状態で,他岩相中に貫入し,マグマ固結末期の分化鉱床をつくる。

南アフリカ,プレトリア地方ブシュフェルト複合岩体の地質概略図
南アフリカ,プレトリア地方
ブシュフェルト複合岩体の地質概略図

 また,最も大規模なクロム鉱床である南アフリカのブシュフェルト鉱山は,約19億年前に当時の陸地の地殻の中に巨大な塩基性マグマが貫入し,巨大なマグマがゆっくり冷えながら固化してゆく過程で,融点が高く比重の重い鉄やクロムを含む成分が底部に沈み,残った軽い成分が上部に分化してできた鉱床である(右図参照)。このクロムの濃集した鉱石は白金族元素を含み世界的な白金鉱床でもある。

南アフリカ,ブシュフェルト,モイホーク白金パイプ<br>中心(黒色):白金をともなうクロム鉄鉱を<br>もつホートトノライトダナイト
南アフリカ,ブシュフェルト,モイホーク白金パイプ中心(黒色):白金をともなう
クロム鉄鉱をもつホートトノライトダナイト
フィンランド,コタラチ鉱山の超塩基性岩(UBR)中の含バナジュウム磁鉄鉱(mag)鉱層
フィンランド,コタラチ鉱山の
超塩基性岩(UBR)中の含バナジュウム
磁鉄鉱(mag)鉱層
フィンランド,ケミ・クロム鉱床の露天掘り
フィンランド,ケミ・クロム鉱床の露天掘り
世界の主のマグマ鉱床の分布(鉱種別)
世界の主のマグマ鉱床の分布(鉱種別)
世界の主な正マグマ鉱床
鉱物名
関係火成岩 主な鉱石鉱物 主な産地 マグマの分化現象
ニッケル・銅(白金)
塩基性岩,超塩基性岩(斑れい岩,ノーライト,かんらん岩,コマチアイト,玄武岩) 含ニッケル磁硫鉄鉱,ペントランド鉱,黄銅鉱(砒白金鉱,硫白金鉱,安パラジウム鉱,ブラッグ鉱 カナダ(サッドベリー,トムソン,リンレーク,ボイセイズ・ベイ),南アフリカ(イシズリン,ブッシュフェルト),ジンバブエ(グレートダイク),ロシア(ペチェンガ,モンチェゴルスク,リリスク),フィンランド(コタラチ),オーストラリア(カムバルダ),中国(金川),北海道(幌満,美幌) 液相分離(不混和),重力,対流,貫入,絞り出し
クロム(白金)
超塩基性岩,塩基性岩(かんらん岩,斑れい岩,蛇紋岩,オフィオライト) クロム鉄鉱(自然白金族、硫白金鉱,砒白金など) 南アフリカ(ブッシュフェルト),ジンバブエ(グレートダイク),ロシア(ウラル),カザフ(ケンピルサイ,ドスコイ),フィンランド(ケミ),アメリカ(スティルウォーター),鳥取県(若松,広瀬),北海道(日東,八田) 重力,対流,貫入
塩基性岩(斑れい岩,ノーライト) 含チタン・バナジウム磁鉄鉱(チタン鉄鉱,赤鉄鉱) アメリカ(アジロンダック),南アフリカ(ブッシュフェルト),フィンランド(オタマキ),中国(らん平),福島県(剱ヶ峰) 重力,対流,貫入,絞り出し
中性岩(閃長斑岩,石英斑岩) 磁鉄鉱(燐灰石) スウェーデン(キルナ【2】),ゲリバーラー) 重力,対流,貫入
チタン
塩基性岩(斑れい岩,ノーライト,斜長岩) チタン鉄鉱(赤鉄鉱,磁鉄鉱) ノルウェー(エゲルスンド),カナダ(アラード・レーク,セント・ウルベイン),南アフリカ(ブシュフェルト) 重力,対流,貫入,絞り出し
白金(クロム)
超塩基性岩,塩基性岩(かんらん岩,斑れい岩) 自然白金,パラジウム,ロジウム,オスミウム,砒白金鉱,硫白金鉱など(クロム鉄鉱) 南アフリカ(ラステンベルグ,ブッシュフェルト),ロシア(ウラル),アメリカ(スティルウォーター) 重力,対流,貫入
  •  【1】:マグマ鉱床は日本には非常に少なく,その規模も小さい。
  •  【2】:スウェーデン,キルナ地方の鉄鉱床については最近マグマ鉱床でなく,堆積鉱床との説がある。
正マグマ鉱床産鉱石鉱物
鉱石名
鉱物名 化学式 含金量(重量%)
クロム
クロム鉄鉱 FeCr2O4 クロム 46.5
磁鉄鉱 Fe3O4 鉄 72.4
赤鉄鉱 Fe2O3 鉄 69.9
チタン
チタン鉄鉱 FeTiO3 チタン 31.6
ニッケル
含ニッケル磁硫鉄鉱 (Fe,Ni)1-xS ニッケル 1~5
針ニッケル鉱 NiS ニッケル 64.7
ヒーズルウッド鉱 Ni3S2 ニッケル 83.3
ペントランド鉱 (Fe,Ni)9S8 ニッケル 34.2
黄銅鉱 CuFeS2 銅 34.6
斑銅鉱 Cu5FeS4 銅 63.3
キューバ鉱 CuFe2S3 銅 23.4
白金族
自然白金 Pt(Fe,Ir,Pd,Ni) 白金 80~95
砒白金鉱 PtAs2 白金 56.5
硫白金鉱 (Pt,Pd,Ni)S 白金 85.9
イソ鉄白金 (Pt,Pd)3(Fe,Cu) 白金 91.29
自然パラジウム Pd パラジウム ~100
砒パラジウム Pd2As パラジウム ~73.9
安パラジウム Pd5Sb2 パラジウム ~68.6
ブラッグ鉱 (Pt,Pd,Ni)S 白金 62.1,パラジウム 19.0
ミッチェナー鉱 PdBiTe パラジウム ~24.0
自然ロジウム Rh0.57Pt0.43 白金 69.6,パラジウム 41.7
自然オスミウム (Os,Ir) オスミウム ~85~99
(イリドスミン) (Os,Ir) オスミウム ~55,イリジウム ~45,

 日本において正マグマ鉱床は鳥取県広瀬鉱山,若松鉱山などのクロム鉱床で,超塩基性岩中の塊状クロム鉄鉱を採掘していた。
兵庫県夏梅鉱山のニッケル鉱床も正マグマ鉱床に分類してもされているが,周囲の岩石はすべて蛇紋岩化しており,正マグマ鉱床か,蛇紋石化作用により,ニッケル鉱物が濃集したかは疑問が残る。

【カーボナタイト鉱床】
 マグマ鉱床の特異なものとして,方解石やドロマイトなどの炭酸塩類を主成分(50%以上含む)とするマグマが固結して生成したカーボナタイト鉱床がある。炭酸塩鉱物(方解石,苦灰石)を主体とし,若干の珪酸塩鉱物を伴い,蛍石,重晶石,チタン鉄鉱などを特徴的に含む。有用元素を含むリン酸塩やニオブ酸塩鉱物も産出し,ニオブ,タンタル,希土類元素などレアメタルが濃集している。少量の磁硫鉄鉱,黄鉄鉱,輝水鉛鉱,方鉛鉱,黄銅鉱,閃亜鉛鉱を伴う。
先カンブリア時代の大陸盾状地に,超塩基性岩やアルカリ火成岩に伴って,岩床または岩脈として産するが,まれに,溶岩流としても見られる。

【酸性火山岩に由来する鉱床】
 ごく稀な例として,磁鉄鉱マグマが地表付近に流出・固結した鉄鉱床(チリ,エル・ラコ鉱山)や溶融硫黄の固結した硫黄鉱床(北海道知床硫黄山)が知られている。
チリ,エル・ラコ鉄鉱床はエル・ラコ火山(標高5400m)の中腹から噴出した磁鉄鉱マグマが固結して形成されたもので,厚さ5mくらいの層状をなし,見かけ上は磁鉄鉱・赤鉄鉱からなる溶岩流のようで,埋蔵量は数億トンにも及ぶ。

チリ,エル・ラコ鉱山の磁鉄鉱鉱層の採掘現場
チリ,エル・ラコ鉱山の
磁鉄鉱鉱層の採掘現場
チリ,エル・ラコ鉱山の磁鉄鉱鉱石
チリ,エル・ラコ鉱山の
磁鉄鉱鉱石

 北海道知床硫黄山の硫黄鉱床は明治年間(1889-1990)にほぼ純度100%の溶解硫黄が噴出し,斜里町側に流下しオホーツク海に流れ込んだ形成されたものである。当時は貴重な資源であった硫黄を直接採掘できるとあって,鉱業関係者が殺到した盛んに採掘されたが,その後石油の脱硫装置から副産物として硫黄の大量生産が可能となるとともに廃山となった。