堆積鉱床

 地殻表層環境で営まれている地質諸過程(岩石の風化,浸食,運搬,沈積などの現象)に関係して生成した鉱床を,堆積鉱床という。堆積作用はおもに風化現象から始まる。これには物理的風化作用と化学的風化作用とが関係する。この両作用が相互に関与するため,元素および鉱物を濃集させる機構もまた多様で,種々のタイプの鉱床を形成している。

【風化残留鉱床】
 地表の岩石は,天水,地表水,大気,生物との物理・化学・生物的作用によって破壊・分解されるが,これを風化という。高温多雨の熱帯および亜熱帯地域ほど風化は急速に進行する。この風化過程で,原岩の構成成分の大部分を占めるケイ酸塩の分解が行われ,アルカリ,アルカリ土類元素は溶脱され,その結果鉄やアルミニウムの水酸化物が残留してラテライト(Fe2O3=50~60%)やボーキサイト(Al2O3=50~60%)という鉱石が生じる。これらは原岩の性質を大きく反映していて,ボーキサイトは石灰岩,閃長岩,片麻岩,頁岩などから,またラテライトは玄武岩や塩基性変成岩などから生じる。ボーキサイトは重要なアルミニウムの原料であり,主にオーストラリア,マレーシア,ギニア,ブラジル,ジャマイカなどの熱帯・亜熱帯地区で大規模な露天掘りにより採掘されている。また,ラテライトは主に製鉄や窯業原料になる。

マレーシア,ジョホール州の鉱山で採掘されたボーキサイト
マレーシア,ジョホール州の
鉱山で採掘されたボーキサイト

 ボーキサイトの構成鉱物は生成した地質時代によって異なり,第三紀以降のものはギプサイト(Al(OH)3),中生代のものはベーマイト(AlO(OH)),古生代のものはダイアスポア(AlO(OH))が多い。一方,ラテライトは主にゲーサイト(FeO(OH))からなり,ギブサイトやベーマイトを伴い,それらは通常特徴的な魚卵状構造をつくる。
 一般に,超塩基性岩や蛇紋岩類には微量のニッケル鉱物が含まれている。これらを原岩とする風化残留土壌中にニッケルは濃集し,緑色粉状の珪ニッケル鉱として認められるので,これをラテライト型ニッケル鉱床という。このタイプの鉱床はニューカレドニア,インドネシア,フィリピンに多くあり,ニッケル鉱山として稼行されているが,同時に最近はレアメタル(とくにスカンジウム)資源としても注目されている。
 一方,中国の花こう岩類の一部には比較的レアアースに富むものがあり,それから生じた風化残留土壌中にはレアアース鉱物が濃集している。近年になって,風化残留成のレアアース鉱床が鉱山として盛んに採掘されるようになった。

【機械的堆積鉱床】
 岩石が風化して大小の砂礫となり,水や風で運ばれて,途中で衝突摩耗し,次第に小さな粒子からなる堆積物になる。もし,この堆積物中に化学的に安定で,比重の大きい粒子が含まれていれば,運搬される過程で次第に濃集し,鉱床を形成する。これを砂鉱床または砂礫鉱床という。
 その主なものは,金,白金などの元素鉱物や,磁鉄鉱,チタン鉄鉱,クロム鉄鉱,錫石などの酸化鉱物であり,ときにはモナズ石,鉄マンガン重石なども濃集することがある。一般に濃集した鉱物の種類や量によって,砂金鉱床とか砂鉄鉱床と呼ばれる。砂金は通常微粒子であるが,まれにはくるみ大からこぶし大の金塊としても産出することが知られている。
 砂鉱床は,その集中する場所によって区別され,それらの源となる岩石や鉱床の露出している山の斜面の表土の底に集るものを高地砂鉱,これをうがつ渓流の底のものを渓流砂鉱,普通の河床のものを河床砂鉱,その両岸の平地にあふれた平原砂鉱,海浜のものを海浜砂鉱と称し,海浜あるいは河床の上昇によって生じた段丘面のものを段丘砂鉱という。北上山地(岩手,宮城)で鎌倉時代採集された砂金,中国地方の山地砂鉄(日本刀の原料),マレー半島の砂錫の一部などは原地砂鉱であり,アラスカ,カナダ国境に近いクロンダイクの砂金は段丘及び河床砂鉱、東北地方の東海岸にある砂鉄は海浜砂鉱、インド,ブラジルのモナズ石砂鉱は海浜砂鉱または海岸段丘砂鉱である。

モンゴル,ザーマル地域の砂金回収用ローダー(砂金は手前の階段状部分で回収される)
モンゴル,ザーマル地域の砂金
回収用ローダー(砂金は手前の
階段状部分で回収される)
モンゴル,ザーマル地域で回収された砂金(約300g)
モンゴル,ザーマル地域で
回収された砂金(約300g)

 これらの砂鉱床はその後の新しい堆積物や溶岩流などに被われて埋没することがあり,これを埋没砂鉱床と称する。さらに埋没が進行すると,変成作用を受けて変形するために,褶曲した古い地層の中に砂鉱床が含まれることになる。たとえば,アメリカ,カリフォルニア東部,オーストラリア、ニューサウスウェールス地方などの砂金は第三紀の溶岩流に分布する埋没砂鉱床である。また,青森県天間林の第三紀層中の砂鉄層や、岩手県雲上の古生界中に見られる含チタン鉄鉱層はいずれも埋没砂鉱床であり,後者は垂直に立った地層中に見つかる。山口県黄波戸に見られる砂鉄も第三紀層中に見られる砂鉄層であるが,こちらは小規模であったため採掘はされていない。
 きわめて大規模な機械的堆積鉱床としては,南アフリカ、ウィットウォータ一スンドの含金礫岩層が有名である。これは,四国に相当するほどの広い面積を持つ船底状盆地(長さ480km,幅180km)に分布する堆積岩中に発達する。この礫岩は大小の大きさの石英円礫からなり,その礫間を充填する砂質部に金粒子が肉眼でも観察される。先カンブリア時代(30億年前)の河川扇状地に堆積した砂金鉱床である。
 このウィットウォータースランド盆地は世界最大の金鉱床地帯である。1886年に発見されて以来,現在までに約4万トンの金が採掘されたが,これは有史以来の全世界金総生産量の50%に相当するほどで,莫大な量である。1992年,本地域は29鉱山から約610トンの金を産し,その年の世界生産量の3分の1を占めた。最近は,採掘坑道が地表下3000mの深さにまで達していて,コスト面などの理由から採掘量が年々低下している。
 白金族類は,白金,ロジウム、ルテニウム、パラジウム,イリジウム,オスミウムなどの元素鉱物として産するが,金と同様に比重が極めて大きいために機械的堆積鉱床として濃集しやすい。白金族砂鉱床はロシア,ウラル山地に知られ,日本でも少量ではあるが,白金,イリジウム,オスミウムが北海道中軸地帯の河川堆積物中から発見され,かつて万年筆などの特殊金属用として採取された。
 錫石も比重が6.9と大きくために,河床などに砂錫鉱床をつくる。錫石を伴った鉱脈が発達する地域の河川堆積物中に産し,特にマレー半島を中心に北はタイ国及び中国雲南地域,南はインドネシアに及ぶ地帯は世界の最重要な砂錫鉱床の産地になっている。
 砂鉄は花こう岩地帯に産する磁鉄鉱を主とするものと,火山岩に伴う磁鉄鉱及びチタン鉄鉱を主とするものとがあり,前者は中国地方(島根,鳥取),後者は東北地方太平洋海岸、北海道噴火湾沿岸に多い。これらの砂鉄は江戸時代以前の重要な鉄資源であった。
 モナズ石はその副成分のトリウムが原子燃料として利用される。インドのトラバンコール海岸,ブラジルの東海岸に砂鉱床として多量に産する。

【鉄鉱層】
 岩石の風化で、その金属成分が雨水に溶け,例えば鉄の場合,塩化鉄,硫酸鉄あるいは重炭酸鉄などとして,河川で運ばれ,湖や海に流入する。そこで湖(海)水の水素イオン活動度(pH)や酸化還元ポテンシャル(Eh)などが、水酸化鉄,酸化鉄あるいは炭酸鉄などの沈殿を生じるような条件になれば,針鉄鉱FeO(OH),赤鉄鉱Fe2O3あるいは菱鉄鉱FeCO3が生じ,湖(海)底に沈殿,堆積し,長年かかって鉄鉱層を形成する。この場合,水酸化鉄などは小球状,魚卵状を呈することが多く,さらにその後赤鉄鉱になる場合がある。これらの沈殿を起す化学反応(酸化作用など)は無機的なものだけでなく,バクテリアなど徹生物の有機的作用による場合も少なくない。
 欧州第一の鉄鉱床であるフランス、ローレン地方の鉄鉱床は,中生代に生成した魚卵状褐鉄鉱(ミネット)からなる鉱層で,これに菱鉄鉱を伴う。また英国東部の鉄鉱床もこれに類するが,菱鉄鉱を主とする点で異なる。一方,アメリカ東部のクリントン及び中国の北京市北方に位置する龍俎地方の鉄鉱は,それぞれ古生代及び先カンブリア時代の魚卵状赤鉄鉱からなる鉱床である。
 中国連寧省鞍山地方(弓長嶺,廟昇溝,大孤山)や北朝鮮茂山の鉄鉱もこれに類するが,鉄分30~35%程度の低品位の珪岩質鉄鉱層であるために,現在では採掘されていない。

カナダ,ムース山鉱山で見られる縞状鉄鉱床
カナダ,ムース山鉱山で見られる縞状鉄鉱床

 アメリカ,スペリオル湖西岸の鉄鉱床やオーストラリアの鉄鉱床は,いずれも世界的な規模の大鉱床で,先カンブリア時代の赤鉄鉱、磁鉄鉱,石英(珪岩)よりなる縞状鉄鉱床である。現在,世界の鉄資源のほとんどは,この縞状鉄鉱床から供給されている。

カナダ,ヒルトン鉄山での鉄鉱床の露天掘り
カナダ,ヒルトン鉄山での鉄鉱床の露天掘り
カナダ,シャーマン鉱山の縞状鉄鉱床(銀白色:磁鉄鉱,赤:赤鉄鉱+チャート)
カナダ,シャーマン鉱山の縞状鉄鉱床
(銀白色:磁鉄鉱,赤:赤鉄鉱+チャート)

 国内では,北海道常呂地方(国力,仁倉,富呂),岩手県盛岡東方(砂子沢),福島県小平,福石(清道),高知県国見山,安芸などに中古生代のチャートや輝緑凝灰岩,緑色片岩などに伴われる含マンガン鉄鉱(赤鉄鉱,磁鉄鉱)からなる層状の鉄鉱床がある。しかしいずれも小規模である。  世界最大のマンガン鉱床はウクライナ,ニコポリ鉱床であり,これに次ぐ規模としてグルジア国クタイシ鉱床が知られている。いずれも第三紀の堆積鉱床で,軟マンガン鉱(Mn02),水マンガン鉱(Mn00H),菱マンガン鉱(MnC03)などよりなる。

ブルガリアの層状マンガン鉱床
ブルガリアの層状マンガン鉱床

 現在,深海底上に点在して分布するマンガンノジュール(団塊)は,マンガンや鉄の水酸化物あるいは酸化物からなり,微量ながらニッケル,コバルト,鉛などの重金属を含んだ海底沈殿物である。将来の重要な資源としてその活用が期待される。

【含銅砂岩】
 アフリカ大陸の南部,ザンビア共和国中部からコンゴ共和国にかけて,北西-南東方向に延長約500kmで帯状に発達した銅鉱床帯がある。これをカッパーベルト型鉱床という。鉱床規模は斑岩銅鉱床の埋蔵量に匹敵するほど大量であるが,この地域の政状が不安定なために,開発が中断したままである。このカッパーベルト型鉱床は,先カンブリア時代の石灰岩,頁岩,砂岩中に銅鉱物(孔雀石,珪孔雀石ほか)が鉱染状に濃集した鉱床である。少量ながらコバルトやニッケルも濃集しており,今後コバルト等の供給源として重要である。

ボリビア,コロコロ鉱山の砂岩中の銅鉱物(輝銅鉱・孔雀石)の産状
ボリビア,コロコロ鉱山の砂岩中の
銅鉱物(輝銅鉱・孔雀石)の産状

 南米ペルー,ボリビア,チリの3か国にかけて第三紀に堆積した内陸性の砂岩・礫岩を母岩とし,地層と同時に生成した自然銅・輝銅鉱からなる層状の銅鉱床がある。一般に銅品位は低いが,時に高品位を示す部分があり,古くはインカ時代から断続的に銅鉱山として稼行されてきた。その代表はボリビア国ラパス市の南西方100kmに位置するコロコロ鉱山(右図参照)である。この鉱山の名前からこの種の鉱床をコロコロ型鉱床と称している。まれに,1m2以上の大きさの自然銅の板状結晶が産出する。

【含銅頁岩】
 ドイツ,ポーランド,オランダ,イギリスなどの中部ヨーロッパに,古生代末~中生代初期(ペルム紀末~トリアス紀初期)に堆積した頁岩層が分布するが,これには銅をはじめ鉛,亜鉛,銀などの重金属が含まれていて,層状の銅鉱床になっている。この鉱床は,主として銅を対象に採掘されてきた。分布面積は60万km2にも達するが,0.3%以上の銅を含有しているのはその約1%で,鉱石として採掘しうる含有量(銅2~3%ないしそれ以上)をもっているのは全体の0.2%程度にすぎない。鉱床分布域は主としてドイツとポーランドにあり,古くから両国の主要な鉱産地であった。

カナダ,エリオット・レイク鉱山のウラン鉱物を含む礫岩
カナダ,エリオット・レイク鉱山の
ウラン鉱物を含む礫岩

【地下水浸透型鉱床】
 岩石に含まれている一部の成分が,地下水によって選択的に溶出され,運搬されて別の場所で再沈殿することがある。このような過程を経て金属が濃集生成したのが地下水浸透型鉱床である。この溶出と再沈殿には,地下水循環系における無機化学的あるいは微生物化学的な作用が重要な役割を果たす。例えば,花崗岩中に酸化的な地下水が侵入すると,鉱物粒子の間に存在する微量の難溶性の4価ウランが酸化され,易溶性の6価ウラン(ウラニルイオン)となって溶出する。このウラニルイオンが堆積岩中の有機物などと接すると再び還元されて4価のイオンとなり,種々のウラン鉱物として沈殿する。

 日本の人形峠鉱床(鳥取・岡山県境)や東濃ウラン鉱床(岐阜県)はこのタイプの鉱床である。
 既存の鉱床の銅鉱石が地下水に溶脱し,それが別の場所で再沈殿してできた鉱床がある。チリのエクソチカ鉱床(ミナ・スール鉱床ともいう)がその例である。これは,大規模なチュキカマタ鉱山の斑岩銅鉱床の銅成分が地下水に溶脱し,運搬され,鉱山の近くに再沈殿したものである。斑岩銅鉱床の地表露頭部の硫化鉱物が,降水や地下水(天水)の影響を受けて酸化分解し,含まれていた金属(銅)が溶け出し,それが酸化環境で安定な銅の二次鉱物である孔雀石,珪孔雀石,アタカマ石などとして,河川堆積物である砂礫とともに多量に沈殿している(下図参照)。

チリ,エクソチカ鉱山に産する二次鉱物(珪孔雀石)の産状
チリ,エクソチカ鉱山に産する
二次鉱物(珪孔雀石)の産状
チリ,エクソチカ鉱山での銅鉱石の露天掘り
チリ,エクソチカ鉱山での
銅鉱石の露天掘り

【蒸発岩鉱床】
 乾燥気候の卓越する地域の閉鎖的あるいは半閉鎖的な堆積盆では,太陽熱により海水あるいは湖水の蒸発が激しく,飽和濃度に達した塩類(炭酸塩,硫酸塩,塩化物塩など)が順次析出沈殿する。このような過程で生成した鉱床を蒸発岩鉱床という。岩塩鉱床がその代表である。この型の鉱床は,北米大陸,ヨーロッパ大陸,インドシナ半島などの各地に分布する。これらの多くは,特に先カンブリア時代,古生代,第三紀中新世に形成されている。現在でも,乾燥地帯の塩湖(米国のソルトレイク,中近東の死海,ボリビアのウユニ塩湖)では,その湖岸には岩塩をはじめ各種の塩類が沈殿している。

ボリビア,ウユニ塩湖の全景(一面六角板状の岩塩の大きな結晶が見られる)
ボリビア,ウユニ塩湖の全景(一面六角
板状の岩塩の大きな結晶が見られる)
ボリビア,ウユニ塩湖での岩塩の採掘風景
ボリビア,ウユニ塩湖での
岩塩の採掘風景
チリ,アスコタン塩湖にみられるリチウムに富む塩湖堆積物
チリ,アスコタン塩湖にみられる
リチウムに富む塩湖堆積物

 蒸発岩鉱床は,リチウムなどの希少アルカリ元素の重要な供給源でもある。
 現在,リチウムの回収はチリ及びアルゼンチンの塩湖中の塩水から回収している。しかし,ボリビア,ウユニ塩湖(面積はほぼ岐阜県に相当)の蒸発沈殿物には世界最大規模のリチウム埋蔵量が確認されているが,その開発はまだ計画段階である。