変成鉱床

 すでに生成している鉱床が,その後に起きたマグマの貫入による接触変成作用,あるいは造山運動による広域変成作用の影響を受けると,もととは違った状態に変化するが,そのようにして様変わりした鉱床を変成鉱床という。
 前者のマグマの貫入による影響を受けてできた鉱床を特に接触変成鉱床という。このタイプの鉱床では,多<の場合鉱石はその組織構造や鉱物組合せを変化させ,もとの状態とは大きく異なったものになる。たとえば,黄鉄鉱は再結晶して粗粒化するし,さらにより強く熱の影響を受けると磁硫鉄鉱や磁鉄鉱のような別の鉱物に変わる(たとえば,宮崎県槙峰鉱山,岡山県柵原鉱山,茨城県日立鉱山,愛媛県別子鉱山の硫化物鉱床の一部)。

茨城県日立鉱山の接触変成を受けた含銅黄鉄鉱・磁硫鉄鉱鉱体
茨城県日立鉱山の接触変成を
受けた含銅黄鉄鉱・磁硫鉄鉱鉱体
岡山県柵原鉱山の再結晶した黄銅鉱と磁硫鉄鉱
岡山県柵原鉱山の再結晶した
黄銅鉱と磁硫鉄鉱
岩手県野田玉川鉱山での接触変成作用により生成したバラ輝石とテフロ石
岩手県野田玉川鉱山での
接触変成作用により生成した
バラ輝石とテフロ石

 層状マンガン鉱床の場合は,もとの微細な炭酸塩鉱物(菱マンガン鉱)や水酸化鉱物(キミマン鉱)が接触変成作用による熱の影響を受けて分解し,高温条件下で安定な別の珪酸塩鉱物(バラ輝石,テフロ石など)や酸化鉱物(ハウスマン鉱など)に変化して粗粒な鉱物集合体になる(たとえば,岩手県野田玉川鉱山、栃木県加蘇鉱山の層状マンガン鉱床)。明らかに変成鉱床であるが,元の鉱床が炭酸塩に富んでいたことから,再結晶スカルン鉱床と見なすこともできる。

 一方,広域変成作用によって鉱床の形態や鉱物組合せを変化させた鉱床を特に広域変成鉱床という。三波川変成帯などにみられる層状含銅硫化鉄鉱床(キースラーガー)や領家変成帯の変成マンガン鉱床,御斉所変成帯の鉄鉱床などはこのタイプの鉱床に相当する。

愛媛県佐々連鉱山における褶曲した含銅硫化鉄鉱層
愛媛県佐々連鉱山における
褶曲した含銅硫化鉄鉱層

 広域変成作用を受けたキースラーガー鉱床には,下川(北海道),日立(茨城県),久根おび峰之沢(静岡県),別子,佐々連,大久喜(愛媛県),白滝(高知県)などの鉱床があり,銅や硫化鉄鉱資源として長年にわたり開発された。
 日本の代表的な鉱山である別子鉱山は,280年もの長きにわたってキースラーガー鉱床を採掘したが,その結果,一枚の層状を示す鉱体がヘヤピン状に折れ曲がっていて,見かけ上二枚に見えるほどに鉱床全体が激しく褶曲していることが分かった。また,鉱体の深部は花こう岩質マグマの貫入による熱の影響を受けていて,黄鉄鉱が磁硫鉄鉱に変化している。さらにアンチモンによる鉱化作用をも受けていて,そこでは銅とアンチモンが反応してできた鉱物(含水銀四面安銅鉱)が生成している。したがって,別子鉱山のキースラーガー鉱床は広域変成作用を受けたのち,さらにその後に接触変成作用の影響も受けていることから,多重変成鉱床ともいえる。