【斑岩銅鉱床】
花こう岩質ないし石英閃緑岩質のマグマが地殻浅所まで貫入して半深成岩体をつくる場合,そのマグマ活動末期に生じた熱水により,岩体自身及びその周縁部の被貫入岩は著しく熱水変質を受ける。と同時に,銅を主としモリブデンや金を伴う鉱化作用が変質岩体中で広く行われ,大規模な網状鉱染鉱床(一部鉱脈)が生成される。このタイプの熱水性鉱床を斑岩銅鉱床(またはポーフィリーカッパ―)という。特徴的なことは,銅や金,モリブデンが低品位ではあるが広範囲に含まれていて,鉱床の規模が極めて大きいことである。鉱石鉱物は黄銅鉱と黄鉄鉱を主とし,輝水鉛鉱,自然金を伴い,母岩中に散点状ないし網状細脈として産する。通常,鉱床の上部(地表部)は風化残留作用による二次富化帯を形成し,二次鉱物である輝銅鉱や孔雀石,珪孔雀石,アタカマ石などが濃集し富鉱部を形成している。
斑岩型銅鉱床の多くは,右図のように中生代以降の造山帯(北米ロッキー山脈,南米のアンデス山脈,モンゴル,フィリピン,パプアニューギニアなど西南太平洋の島弧など)に分布する。その分布は太平洋プレート,ナスカプレート,ユーラシアプレートなどの沈みこみ帯の分布と密接な関係がある。とくにカナダ,アメリカロッキー山脈や南米コロンビア,ペルー,チリ,アルゼンチンなどのアンデス山脈中によく発達している。
このうち,南北アメリカ大陸に分布する鉱床はモリブデンに富み,一部にタングステンやスズを伴うものもある。一方,南西太平洋島弧の斑岩銅鉱床はモリブデンよりも金に富む。鉱石の銅品位はいずれも0.4~1.0%で低いが,変質岩体の大部分が鉱石となるため,鉱体は直径数100~数1000mの規模を有し,埋蔵量が多く,1億トンないし10億トン,ときにはそれ以上のものもある。一部を除き,ほとんどが露天掘りで採掘され,機械化により大量処理されている。現在世界の銅の大半はこの斑岩銅鉱床から産出する。世界一埋蔵量を誇る南米チリのチュキカマタ鉱山もこのタイプの鉱床を採掘している。日本にはこのタイプの鉱床は発見されていない。
国名 | 鉱山名 | 埋蔵量 (億トン) |
Cu(%) | Mo(%) | Au(g/t) | Ag(g/t) |
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カナダ | ロネックス | 5 | 0.41 | 0.15 | ― | ― |
バレー・カッパー | 9 | 0.48 | ― | ― | ― | |
アメリカ | バクダット(アリゾナ) | 8 | 0.5 | 0.03 | ― | 0.6 |
モレンシ(アリゾナ) | 5 | 0.9 | 0.007 | ― | ― | |
サンフォード・ケネコット(アリゾナ) | 20 | 0.5 | ― | ― | ― | |
サン・マヌエルカラマズー(アリゾナ) | 10 | 0.74 | 0.015 | ― | ― | |
ビュート(モンタナ) | 5 | 0.8 | ― | ― | ― | |
サンタ・リタ(ニューメキシコ) | 5 | 0.95 | ― | ― | ― | |
ビンガム(ユタ) | 17 | 0.71 | 0.053 | ― | ― | |
メキシコ | エル・アルコ(バハカリフォルニア) | 6 | 0.6 | ― | ― | ― |
ラ・カリダッド(ソノラ) | 7.5 | 0.67 | 0.02 | ― | ― | |
パナマ | セロ・コロラド | 20 | 0.6 | 0.015 | 0.06 | 4.6 |
チリ | チュキカマタ | 100 | 0.56 | ― | ― | ― |
エル・アブラ | 12 | 0.7 | ― | ― | ― | |
エル・テニエンテ | 80 | 0.68 | 0.015 | 4.6 | ― | |
ペルー | サンタ・ロサ | 10 | 0.55 | ― | ― | ― |
パプア・ ニューギニア |
フリエアダ リバー | 80 | 0.46 | 0.005 | 0.2 | ― |
パングナ | 10 | 0.47 | 0.005 | 0.48 | 1.6 | |
セブ島 | アトラス | 11 | 0.55 | ― | ― | ― |
斑岩銅鉱床の熱水変質は著しく,鉱体全域にわたって行われ,生成した鉱物の種類と分布によって規則的な帯状分布が見られる。中央部にカリ変質帯がある。石英,カリ長石,黒雲母を主とし,絹雲母,硬石膏を伴う。この帯の中央下部は石英,絹雲母,緑泥石,カリ長石質帯となる。その外側にフィリック変質帯があり,石英,絹雲母よりなり,多量の細脈鉱染状の黄鉄鉱を産する。この帯に接してその外帯に粘土帯があり,石英,カオリンを生じ,緑泥石を伴う。細脈状黄鉄鉱が見られるが,フィリック帯より少ない。この粘土帯は鉱床によっては存在しないことがある。さらにその外側(最外側)にプロピライト変質帯があり,緑泥石,緑簾石,方解石と氷長石,曹長石を生じている。この帯の下部は緑泥石,絹雲母,緑簾石,磁鉄鉱の組合せになる(上図参照)。
この鉱床から産する鉱石鉱物は黄銅鉱,黄鉄鉱,輝水鉛鉱で,これに金,銀を伴う。カリ変質帯は低品位の黄銅鉱,黄鉄鉱,輝水鉛鉱の微細脈,鉱染帯で,その下部に磁鉄鉱を生じる。この変質帯と外側のフィリック帯との境界付近に優勢な鉱石帯(高品位帯)があり,細脈鉱染状の黄銅鉱(1-3%),黄鉄鉱(1%),輝水鉛鉱(0.03%)を産する。フィリック帯(黄鉄鉱帯)は細脈鉱染状の黄鉄鉱(10%)を主とし,これに黄銅鉱(0.1-3%),輝水鉛鉱(微量)を伴う。さらに外帯のプロピライト帯は黄鉄鉱(2%)細脈を主とし,この帯の下部ではこれに磁鉄鉱を加わる。鉱体上部では金,銀,鉛,亜鉛などの鉱脈がみられる(上図参照)。
これらのうち,黄鉄鉱帯,高品位帯の硫化物細脈(網状)鉱染鉱体,低品位帯などが露天掘りで大規模に採掘されている。
この鉱床の生成は花こう斑岩の活動と密接な関係があり,このマグマ源の熱水溶液によると考えられているが,鉱床外側のフィリック帯やプロピライト帯の鉱化作用は循環性地下水起源の熱水混入を受けている。
鉱床の上部は地下水により二次富化作用を受け,黄銅鉱は輝銅鉱,銅藍や斑銅鉱などの硫化鉱物,孔雀石,アタカマ石などの二次鉱物が産出し,銅が濃集している。
南北アメリカ,ニューギニアの斑岩銅鉱床は現在の海洋プレートの沈み込み帯の大陸側に位置し,中生代の斑岩中に産するが,モンゴルにおいては大陸プレートの境界部付近にこの斑岩銅鉱床がみられ,エルデネット鉱山において銅・モリブデン鉱石が採掘されてきた。
最近,ゴビ砂漠中にデボン紀後期の石英モンゾニ岩の活動に伴い生成したオユトルゴイ斑岩銅鉱床が発見され,開発されつつある。鉱床は潜頭鉱床であるが,その確認鉱量は14億トンに及び,品位は銅1.33%,金0.47g/tを示し世界屈指の規模である。