【スカルンについて】
スカルンとは,もともとスウェーデンで坑夫などが使っていた鉱山用語が一般化したもので,炭酸塩岩(石灰岩,苦灰岩など)が熱水(鉱化流体)からもたらされた珪酸,アルミナ,鉄などの成分と反応し,その結果生じたカルシウムまたはマグネシウム質珪酸塩鉱物の集合体をいう。主なスカルン鉱物として珪灰石,ザクロ石,単斜輝石,緑簾(れん)石などがある。
熱水によるスカルン化作用は石灰岩などの炭酸塩岩がもっとも受け易く,岩体すべてがスカルンに交代されることもまれでない。ときには泥岩(粘板岩),凝灰岩や花こう岩などの火成岩がスカルン化される場合もある。
スカルンの主な成因として
1)初生スカルン
貫入マグマと炭酸塩岩とが直接接触したとき,その境界面にそって両者の相互反応で生成したスカルン(例,福岡県香春岳,岡山県布賀,大分県見立鉱山大吹西鉱体)。
2)鉱石スカルン
マグマから放散された高温の流体によって炭酸塩岩が交代されて生じたスカルン。後生スカルンまたは二次スカルンともいう。日本のみならず世界中で,鉱山として稼行されたスカルン鉱床はこのタイプがほとんどである。
3)再結晶スカルン
不純な石灰岩やマール,石灰質凝灰岩などが熱変成作用により再結晶されて生じたスカルン。ホルンフェルス型ともいう。
4)反応スカルン
広域変成作用により主に固体反応により生じたスカルン(マグマからの物質の供給は認められない)。
などに分類されるが,ここでは鉱石スカルンについてのみ記述する。
また花こう岩の一部が高温の熱水(あるいは流体)の作用で,石英,白雲母を主とし,これにフッ素,硼素,リチウムなどを含む黄玉,鱗雲母,電気石を伴う集合物に変わることがある。これをグライゼンと称する。ときには,これに錫やタングステンなどを含む鉱物を伴い稼行対象の鉱床となる。スカルンとともに高温熱水による変質作用の1つである。
【鉱床の生成】
マグマから花こう岩ができる場合,その末期に生じる高温高圧のマグマ水(鉱化流体)は水分,塩素,弗素,硫黄(硫化水素),炭酸ガスなどの揮発成分や珪酸,アルカリ,アルミナを含み,錫,タングステン,モリブデン,銅,鉄,鉛,亜鉛など,もともとマグマ中にあった多くの有用金属を溶かし込んでいる。
この鉱化流体は普通,花こう岩体の頂部に集まり,その強力な蒸気圧によって周囲の岩石の層理,節理や割れ目(断層,張力裂罅)などの弱線に沿って浸入し,これを破りながら外部,一般には上方へ逸散する。この途中,冷却により流体は熱水溶液(熱水)になる。
この熱水が石灰岩,苦灰岩などの炭酸塩岩に遭遇すれば,熱水はこれと反応して,炭酸塩岩を珪灰石,ザクロ石,透輝石,灰鉄輝石,アクチノ閃石,緑簾石などの集合であるスカルン(鉱石スカルン)に変える。このスカルンには錫石,灰重石,輝水鉛鉱,磁鉄鉱,赤鉄鉱,黄銅鉱,閃亜鉛鉱,方鉛鉱,磁硫鉄鉱,黄鉄鉱などの金属鉱物が伴われることが多く,金属鉱床となる。元素によって移動距離が異なるので,鉱物種ごとに帯状構造を示すことがある。
これはまた花こう岩との接触部付近で炭酸岩塩を交代して産することから,かつては接触交代鉱床と称された。しかし,必ずしも上記の接触部に鉱床ができるとは限らず,それより離れた石灰岩中に生じる方が多いことがわかり,今ではスカルン鉱床という言い方が一般的である。スカルン鉱床の模式的形態は右図のようである。
秩父鉱山におけるスカルンの産状は下図のようで,石英閃緑岩と石灰岩との接触部に鉱床は発達している。
右記のようにスカルン鉱床はマグマ源の熱水溶液による鉱化作用で生成されるが,一方,地下水が地下深部まで浸透し,花こう岩マグマの近くで加熱されて熱水になり,この熱水がマグマ水と混合してスカルン鉱床の生成に関与する場合があるので,熱水の起源も単純ではない。
主なスカルン鉱物は下表のようである。
鉱物名 | 化学式 |
---|---|
珪灰岩 | CaSiO3 |
鉄バスタム石 | CaFeSi2O6 |
単斜輝石 | |
透輝石 | CaMgSi2O6(固溶体) |
灰鉄輝石 | CaFeSi2O6(固溶体) |
ザクロ石 | |
灰礬ザクロ石 | Ca3Al2(SiO4)3(固溶体) |
灰鉄ザクロ石 | Ca3Fe2(SiO4)3(固溶体) |
角閃石 | |
透閃石 | Ca2Mg5Si8O22(OH)2 |
鉄アクチノ閃石 | Ca2(Fe,Mg)5Si8O22(OH)2(固溶体) |
ホルンブレンド | Ca2(Mg,Fe)4(Si7Al)O22(OH)2(固溶体) |
ヘスティング閃石 | NaCa2(Fe,Mg)4Fe3+Si5Al2O22(OH)2 |
珪灰鉄鉱 | CaFe2+Fe23+Si2O8O(OH) |
緑簾石 | Ca2(Al,Fe)3(SiO4)3(OH) |
ベスブ石 | Ca19(Al,Fe,Mg,Ti)13(Si,Al)18(O,OH)78 |
苦土かんらん石 | Mg2SiO4 |
金雲母【1】 | KMg3Si3AlO10(F,OH)2 |
単斜ヒューム石【1】 | Mg9(SiO4)4(OH,F)2 |
滑石【1】 | Mg3Si4O10(OH)2 |
斜長石【2】 | |
曹長石 | NaAlSi3O8(固溶体) |
灰長石 | CaAl2Si2O8(固溶体) |
今スカルン鉱物のでき方を分かり易く説明するために,化学反応式で示せば下のようである。
CaCO3 石灰岩 |
+ | SiO2 珪酸 |
→ | CaSiO3 珪灰石 |
+ | CO2 炭酸ガス |
(原岩) | (熱水) | (スカルン) | (気相) |
5CaCO3 石灰岩 |
+ | 2SiF4 弗化珪素 |
+ | FeCl2 塩化第一鉄 |
+ | H2O 水 |
(原岩) | (熱水) |
→ | CaFeSi2O6 灰鉄輝石 |
+ | 4CaF2 蛍石 |
+ | 2HCl 塩酸 |
+ | 5CO2 炭酸ガス |
(スカルン) | (鉱石) | (熱水) | (気相) |
12CaCO3 石灰岩 |
+ | 3SiF4 弗化珪素 |
+ | 2AlCl3 塩化アルミニウム |
(原岩) | (熱水) |
→ | Ca3Al2Si3O12 灰礬ザクロ石 |
+ | 6CaF2 蛍石 |
+ | 3CaCl2 塩化カルシウム |
+ | 12CO2 炭酸ガス |
(スカルン) | (鉱石) | (熱水) | (気相) |
CaMg(CO3)2 苦灰岩 |
+ | CaCO3 石灰岩 |
+ | 2SiF4 弗化珪素 |
(原岩) | (熱水) |
→ | CaMgSi2O6 灰鉄輝石 |
+ | 4CaF2 蛍石 |
+ | 6CO2 炭酸ガス |
(スカルン) | (鉱石) | (熱水) |
4CaCO3 石灰岩 |
+ | FeCl2 塩化第一鉄 |
+ | 2FeCl3 塩化第二鉄 |
(原岩) | (熱水) |
→ | Fe3O4 磁鉄鉱 |
+ | 4CaCl2 塩化カルシウム |
+ | 4CO2 炭酸ガス |
(鉱石) | (熱水) | (気相) |
2CaCO3 石灰岩 |
+ | Na2WO4 タングステン酸ナトリウム |
+ | SnCl4 塩化錫 |
(原岩) | (熱水) |
→ | CaWO4 灰重石 |
+ | SnO2 錫石 |
+ | 2NaCl 塩化ナトリウム |
+ | 2CO2 炭酸ガス |
(鉱石) | (熱水) |
7CaCO3 石灰岩 |
+ | 3Na2SiO3 珪酸ナトリウム |
+ | FeCl2 塩化第一鉄 |
+ | 4FeCl3 塩化第二鉄 |
+ | 3H2O 水 |
(原岩) | (熱水) |
→ | Ca3Fe2Si3O12 灰鉄柘榴石 |
+ | Fe3O4 磁鉄鉱 |
+ | 4CaCl2 塩化 カルシウム |
+ | 6HCl 塩酸 |
+ | 3Na2CO3 炭酸 ナトリウム |
+ | 4CO2 炭酸ガス |
(スカルン) | (鉱石) | (熱水) | (気相) |
これらの反応で,スカルン鉱物(珪灰石,灰鉄輝石,透輝石,灰鉄ザクロ石,灰礬ザクロ石)や鉱石鉱物(磁鉄鉱,赤鉄鉱,黄銅鉱,キューバ鉱,方鉛鉱,閃亜鉛鉱,灰重石,錫石,蛍石)が石灰岩あるいは苦灰岩と熱水との反応によって生成されることが分かる。
この場合,できる鉱物の組成のうちカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)はそれぞれ石灰岩や苦灰岩から,一方,珪素(Si),アルミニウム(Al),鉄(Fe),タングステン(W),錫(Sn)などは熱水から供給される。(しかし,石灰岩が不純で泥岩質物を含む場合には,ザクロ石のアルミニウム分も原岩から与えられる)。
一般に,スカルン鉱物は石灰岩-珪灰石-単斜輝石-ザクロ石と累帯配列することが多く,銅,鉛・亜鉛鉱石は単斜輝石スカルン中に,鉄鉱石(磁鉄鉱)はザクロ石スカルン中に濃集する傾向がある。
また,タングステン鉱石(灰重石)はスカルン生成後の鉱化作用により,石英を随伴して脈状を呈して産する事が多い。
交代作用には,スカルンのように反応する両者の成分が組み合って交代産物を形成することもまれではない。この反応は,炭酸塩岩(石灰岩)中への熱水の拡散によって生じる化学反応であるが,その機構は複雑でよく分かっていない。主なスカルン鉱床からは鉄,銅,鉛・亜鉛,タングステン,錫,モリブデンなどの鉱石が産する。主要な鉱石鉱物は以下のようである。
鉱石 | 鉱物名 | 化学式 | 元素 | 重量% |
---|---|---|---|---|
銅 | 黄銅鉱 | CuFeS2 | 銅 | 34.6 |
斑銅鉱 | Cu5FeS4 | 銅 | 63.3 | |
キューバ鉱 | CuFe2S3 | 銅 | 23.4 | |
輝銅鉱 | Cu2S | 銅 | 79.9 | |
鉛 | 方鉛鉱 | PbS | 鉛 | 86.6 |
亜鉛 | 閃亜鉛鉱 | (Zn,Fe)S | 亜鉛 | 67.1(ZnS) |
鉄 | 磁鉄鉱 | Fe3O4 | 鉄 | 72.4 |
赤鉄鉱 | Fe2O3 | 鉄 | 69.9 | |
錫 | 錫石 | SnO2 | 錫 | 27.6 |
黄錫鉱 | Cu2FeSnS4 | 錫 | 29.5 | |
タングステン | 灰重石 | CaWO4 | タングステン | 63.9 |
鉄重石 | FeWO4 | タングステン | 60.5 | |
マンガン重石 | MnWO4 | タングステン | 60.7 |
【日本のスカルン鉱床】
日本には石灰岩が広く分布し,その近傍における花崗岩マグマの活動も盛んであったので,結果として多数のスカルン鉱床が生成された。岩手県釜石鉱山(鉄,銅)や岐阜県神岡鉱山(鉛,亜鉛)のスカルン鉱床は世界的な規模を有し,日本における重要な金属資源として,かつては大いに開発・利用された。
主要な鉱石別に代表的なスカルン鉱床をあげれば下表のようである。
鉱石名 | 鉱石鉱物 | 鉱山名(県名) |
---|---|---|
鉄 | 磁鉄鉱 | 桂岡(北海道),釜石(岩手),赤金(岩手),高ノ倉(福島),上岡(福島),八茎(福島),秩父(埼玉),山宝(岡山),金平(岡山),吉原(福岡) |
赤鉄鉱 | 和賀仙人(岩手),赤谷(新潟) | |
銅 | 黄銅鉱 斑銅鉱 キューバ鉱 |
大峰(岩手),釜石(岩手),赤金(岩手),高ノ倉(福島),八茎(福島),持倉(新潟),都茂(島根),笹ケ谷(島根),河山(山口),桜郷(山口),長登(山口),於福(山口),吉原(福島) |
鉛・亜鉛 | 方鉛鉱 閃亜鉛鉱 |
八茎(福島),秩父(埼玉),飯豊(新潟),神岡(岐阜),中竜(岐阜),洞戸(岐阜),後谷(岡山),都茂(島根),河山(山口),桜郷(山口) |
タングステン | 灰重石 | 伊達永井(福島),八茎(福島),都茂(島根),喜和田(山口),玖珂(山口),藤ケ谷(山口) |
錫 | 錫石 | 喜和田(山口),玖珂(山口),尾平(大分),豊栄(大分),新木浦(大分),土呂久(宮崎),見立(宮崎) |
モリブデン | 輝水鉛鉱 | 大川目(岩手),高滝(富山) |
硫化鉄 | 磁硫鉄鉱 黄鉄鉱 |
秩父(埼玉),河山(山口),桜郷(山口) |
砒素 | 硫砒鉄鉱 | 笹ヶ谷(島根),尾平(大分),土呂久(宮崎) |
大峰鉱山の銅鉱石には特徴的にキューバ鉱が多産し,ほかのスカルン鉱床とは異なる生成環境があったと考えられている。
次項で述べる斑岩銅鉱床の周辺部にスカルン鉱床が発達している事もある。
【参考文献】
渡辺武男(1918) 日本の接触変成帯の金属鉱床の特徴. 鈴木醇教授還暦記念論文集, 169-191.
Kerrich, D. M. (1977) The genesis of zoned skarns in the Siera Nevada, California. Jour. Geol., 18, 144-181.
Lents, D. R. ed. (1998) Mineralized intrusion-related skarn systems. Mineralogical Association of Canada, Short Course Series, 26, 1-657.