成因別鉱床(海底噴気熱水鉱床)

【海底噴気熱水鉱床】
1.黒鉱鉱床

 海底に噴出した熱水溶液から銅,鉛,亜鉛を主とし,これに金,銀などを伴う鉱物が沈殿してできた鉱床である。いうまでもなく海底に噴出した熱水は,海水と混合して急冷されるとともに化学反応を起こし,黄銅鉱,黄鉄鉱,閃亜鉛鉱,方鉛鉱,含銀四面銅鉱,重晶石,石膏などの鉱物を沈殿する。このようにして生じた鉱石は一般に細粒緻密な複雑鉱からなり,古くからその色調により黒物(くろもの),白物(しろもの),赤物(あかもの)などと呼ばれてきた。
しかし,これらを利用する技術はなく厄介物扱いされていた。1900年頃,小坂鉱山(秋田県)で黒物を処理して銅を取り出す技術が開発され,以後全国的に黒物が注目されるようになった。平林武は全国の黒物調査(1908年)を行い,はじめてこれを黒鉱(くろこう)鉱床と呼んだ。1960年代後半になって,高品位で鉱量も極めて多い黒鉱鉱床の新しい鉱体が次々に発見され,日本では極めて重要な鉱物資源となった。たとえば,1963年に発見され1994年に採掘を終えた花岡鉱山松峰鉱床は,規模が800m×800m×30m(厚さ)で鉱量3000万トン,平均品位は銅2.4%, 鉛1%,亜鉛3.6%であった。

秋田県北鹿地域の黒鉱鉱床の位置図
秋田県北鹿地域の
黒鉱鉱床の位置図

 日本列島の日本海側に,第三紀中新世の海底火山活動(2000~1500万年前)に関係した安山岩質ないし石英安山岩質の凝灰岩(グリーンタフ)が広く分布する。この火山活動に伴って噴出した熱水と海水との相互作用により,当時の海底あるいはその直下の地層中に層状ないし塊状の亜鉛・鉛・銅を主とする多金属硫化物鉱床が認められるが,これを黒鉱鉱床という。
 この黒鉱鉱床は特に秋田県北鹿地域に多数発見され,多くの鉱山として開発された。

 鉱床は層状をなし,上部は閃亜鉛鉱,方鉛鉱,重晶石なる黒鉱,下部は黄銅鉱,黄鉄鉱よりなる黄鉱からなり,そして最下部の石英(自然金,黄鉄鉱)を主とする珪鉱へと変化する。

黒鉱鉱床の模式的断面図
黒鉱鉱床の模式的断面図

 ときにそれらの鉱体から離れたところに石膏(硬石膏)を伴う。黒鉱の最上部には鉄石英と呼ばれる薄い層があり,上盤の凝灰岩層に移化する。珪鉱は黄鉱の下部に上拡がりの網状鉱体として産し,ときにその下部が正規の鉱脈に変わる。その模式断面は右図の様である。

 秋田県古遠部鉱山における珪鉱,黄鉱,黒鉱,鉄石英および上盤粘土の産状は下図の様である。

秋田県古遠部鉱山における珪鉱,黄鉱,鉄石英の産状
秋田県古遠部鉱山における
珪鉱,黄鉱,鉄石英の産状
秋田県古遠部鉱山における黄鉱と黒鉱の産状
秋田県古遠部鉱山における
黄鉱と黒鉱の産状

 黒鉱鉱床には常に重晶石が含まれ,またしばしば大規模な石膏(および硬石膏)の鉱床を随伴し,石膏鉱床として採掘された鉱床もある。
 鉱床周辺の岩石(母岩)は,一般に著しい熱水変質により粘土(絹雲母,緑泥石,スメクタイト)化されている。
 黒鉱鉱床は銀品位の高い鉱石を産することも鉱床の特徴である。黒鉱中,銀鉱物として普遍的に産する鉱物は含銀四面銅鉱であるが,このほか,輝銀鉱(針銀鉱),輝銀銅鉱,雑銀鉱,紅銀鉱,ピアス鉱,古遠部鉱などを伴う。この黒鉱鉱床が地表近くにある場合,硫化鉱物が地下水により溶脱され,そのために残存部の銀品位がさらに高くなった鉱石が産出し,銀山として開発されていた(石見銀山,花岡鉱山)。
 黒鉱鉱床をつくった熱水溶液の起源については多くの議論がある。たとえば,海水や地下水起源の循環性熱水とマグマ水とが混合した熱水とする考えや,マグマ水と関係なく殆どが循環性熱水とする説があり,これらのいずれかが海底に噴出して海水とさまざまに反応した結果沈殿生成したのが黒鉱鉱床考えられている。

秋田県古遠部鉱山産黒鉱中に見られるコロフォーム組織
秋田県古遠部鉱山産黒鉱中に
見られるコロフォーム組織

 鉱石とくに黒鉱中の鉱石には,コロイド溶液の凝固よって生じる組織によく似たコロフォーム組織が顕微鏡下で観察される。閃亜鉛鉱,黄銅鉱,方鉛鉱,黄鉄鉱などによくみられ,これらが球形の同心円状組織を呈することもある。これは黒鉱が自由空間で,しかも比較的低温状態で生じたことを示している。

秋田県古遠部鉱山産黒鉱の級化構造
秋田県古遠部鉱山産黒鉱の級化構造

 また,とくに鉱体の周辺部の鉱石の一部には級化構造や覆瓦(ふくが)構造を示すものが認められる。これは,鉱床生成直後に生じた噴気活動により鉱石が母岩とともに破砕され,海水中に一時的に漂ったのちに,粗粒破片から先に海底面に二次堆積したものと考えられる。

カナダ,ニューファンランド州ニュー・ブルンスウィック鉱山の塊状硫化物鉱体
カナダ,ニューファンランド州
ニュー・ブルンスウィック鉱山の
塊状硫化物鉱体

2.塊状硫化物鉱床
 現在では,黒鉱型鉱床は世界中に広く存在することが知られるようになった。たとえば,カナダのアビティビ・グリーンストン帯ティミンズ~ノランダ地域(始生代,約27億年前),ニューファンドランド地域及びニューブルンスウィック地域,ノルウェーのカレドニア帯(古生代カンブリア紀-オルドビス紀),スペイン及びポルトガル(古生代石炭紀),キプロス島,オーマン,トルコ(中生代)などに分布する。
 いずれも日本の黒鉱鉱床よりもはるかに古い時代のものがほとんどで,変形,変成されているものが多い。カナダ楯状地に産する塊状硫化物鉱床(ノランダ型鉱床ともいう)は,多重変成作用を受けた先カンブリア時代の黒鉱型鉱床とされている。

 また,カナダのキッド・クリーク鉱山の塊状銅・亜鉛・銀鉱床はこのタイプの鉱床と見なすことができる。しかし強く広域変成作用を受け,元の鉱石組織は消失し,鉱物種も変化しているために,厳密には変成鉱床に分類すべきであろう。なお,この鉱床は鉱物組み合わせなどの点から,日本のキースラーガ―鉱床とは異なるので,ここでは変成作用を強く受けた塊状硫化物鉱床として取り扱った。

カナダ,オンタリオ州ティミンス地方キッド・クリーク鉱山の露天掘り
カナダ,オンタリオ州
ティミンス地方キッド・クリーク鉱山
の露天掘り
カナダ,オンタリオ州ティミンス地方キッド・クリーク鉱山の塊状硫化物鉱体
カナダ,オンタリオ州
ティミンス地方キッド・クリーク鉱山の
塊状硫化物鉱体

 原生代の大陸地殻のリフト帯中に産する巨大な層状の鉛-亜鉛硫化物鉱床(カナダのサリバン,オーストラリアのブロークンヒル,マウントアイザ,マッカーサーなどの鉱床)も,しばしば黒鉱型に比較される。しかし,これらは火山性物質の乏しい砕屑性細粒堆積物シーケンス中に胚胎しているため異論も多い。
 日本の黒鉱鉱床は生成時代がほぼ1500万年前と比較的新しいために,生成時の状態がよく保存されており,この鉱床についての記載的研究がとくに進んだ。そのこともあって,今では黒鉱「KUROKO」という名称は国際的学術語として広く用いられている。
 現世の活動的な海底熱水成鉱床が,南部マリアナトラフや沖縄トラフが位置する背弧海盆上ですでに10か所以上も発見されているが,その地質学的特徴は黒鉱型鉱床に極めて類似していることから,鉱床成因論的にも新しい金属資源の探査・開発の点からも大いに注目されている。