【鉱脈鉱床】
高温で生じた熱水(金属などを含む鉱化溶液)は,その高い蒸気圧によって地表へ向って上昇する。この場合,通路となるのは断層や張力裂罅などの割れ目で,熱水は通路の岩石と反応し,組成を変化しながら上昇する。途中で,鉱液の温度,圧力(全圧),酸素,硫黄,炭酸ガスなどの分圧,水素イオン活動度(pH)などが変化し,結果的に,鉱物の溶解度が小さくなれば,その鉱物が晶出する。とくに熱水が反応しやすい岩石や地下水と遭遇すれば,急激な化学変化や,温度,圧力(分圧を含めて)の低下が起り,鉱物が急速に沈殿する。このような現象で多くの鉱物が晶出し,やがて割れ目が満たされ鉱脈になる。この鉱脈には金,銀,銅,鉛,亜鉛,錫,タングステン,モリブデン,鉄,ニッケル,コバルト,ビスマス,アンチモン,水銀などの有用金属鉱物が多く含まれ,世界的に重要な資源になっている。これは熱水作用による金属の濃集である。このようにして生じた鉱床を裂罅充填鉱床あるいは単に鉱脈鉱床という。
熱水から晶出する鉱物は,割れ目の両側(外側)から順次右図のように内側へ向って沈殿する。
割れ目が地表にまで達しているときには,熱水は地表へ湧出し,温泉となる。この流れは連続的で,熱水の成分は時間とともに変化し,沈殿する鉱物の種類も時と共に変わる。結果的に,鉱物やその粒度の違いによる縞状鉱脈ができる。この場合,沈殿する鉱物はその前に生じた縞を被覆し,累被縞状構造をつくる。しかし,割れ目が深所にあって,地表に達しないときには,上記のような縞状構造はみられない。
鉱脈型鉱床は,その生成温度によって,深熱水性鉱脈(450~300℃),中熱水性鉱脈(350~200℃),浅熱水性鉱脈(250~100℃)に区別されるが,その区別は明瞭ではない。たとえば,錫,タングステン,モリブデンの鉱石は深い割れ目を充填した深~中熱水性鉱脈に,一方水銀やアンチモンの鉱石は浅熱水性鉱脈に生じている。浅熱水性金銀鉱脈には金の数10倍以上の銀を含むが,深~中熱水性金銀鉱脈は銀分に乏しい。中~深熱水性鉱脈は比較的粗粒の鉱物が隙間なく充填しているが,浅熱水性鉱脈は細粒の鉱物から構成され,累被縞状構造を呈し,鉱脈内に空隙(晶洞)を伴うことが多い。このような特徴から両者は比較的容易に区別される。
たとえば,錫,タングステン,モリブデンなどの鉱石は地下深部の割れ目を充填した鉱脈に多く産する。
浅熱水性金鉱鉱脈には金の数10倍以上の銀を含むが,深熱水性金鉱脈は銀分に乏しい。黄銅鉱,方鉛鉱,閃亜鉛鉱などは深さに関係なく産するが,鉄を含まない閃亜鉛鉱(俗に“べっこう亜鉛”)やウルツ鉱は浅熱水性鉱脈にのみ出現する。
まれにコバルト鉱物がが浅熱水性鉱脈から産出することがある。
時に,錫,タングステン,モリブデン,銅,鉛・亜鉛鉱石など深~浅熱水性鉱脈すべての性格を備えた鉱脈があり,これをゼノサーマル型鉱脈という。
【鉱石の帯状分布】
同一の鉱脈でも上から下まで同じ鉱物(鉱物組合せ)になるとは限らない。深さによって鉱石の種類が異なることがある。たとえば上部が金鉱,下部が銅鉱(たとえば秋田県阿仁鉱山の鉱脈),この中間に亜鉛鉱を産したりする(たとえば山形県小山鉱山の梵天鉱脈)。これを鉱石の帯状分布(ゾーニング)という。たとえば山形県小山鉱山では,鉱脈の下部から上部に向かい黄銅鉱帯,亜鉛・銅帯,亜鉛帯と深さにより,鉱石の帯状分布が認められた。
帯状分布はまた鉱山や地域の鉱脈群について水平的,立体的な広がりとして認められる場合がある。たとえば,英国コンウォール地方では花こう岩貫入岩から離れるにつれて,錫帯,銅帯,亜鉛帯,鉄帯の順に帯状分布が見られる(下図参照)。
【本邦における鉱脈鉱床】
鉱脈鉱床は日本で最もよく見られる鉱床である。世界的高品位の金鉱を産し,総産額もかつての日本一の佐渡金山を抜いた鹿児島県菱刈金山,昔から有名な栃木県足尾銅山や秋田県尾去沢銅山などの多くの金銀,銅,鉛亜鉛や錫,タングステン,モリブデン,アンチモン,水銀などの鉱床がこれに属する。今その主な鉱山を鉱種別に挙げれば次のようである。
鉱石名 | 鉱山名(県名) |
---|---|
金銀鉱 | 鴻之舞(北海道),千歳(北海道),手稲(北海道),静狩(北海道),轟(北海道),珊瑠(北海道),光竜(北海道),阿仁(秋田),院内(秋田)大萱生(岩手),世田米(岩手),大谷(宮城),鹿折(宮城),女川(宮城)小山(山形),高玉(福島),高籏(福島),軽井沢(福島),根羽沢(栃木),西沢(栃木),佐渡(新潟),土肥(静岡),河津(静岡),大仁(静岡),中瀬(兵庫),竹野(兵庫),生野(兵庫),明延(兵庫),大身谷(兵庫),旭日(兵庫),佐越大泊(兵庫),大森(島根),馬上(大分),鯛生(大分),菱刈(鹿児島),串木野(鹿児島),山ヶ野(鹿児島),大口(鹿児島),春日(鹿児島),岩戸(鹿児島),赤石(鹿児島) |
銅鉱 | 手稲(北海道),余市(北海道),尾太(青森),鉛山(秋田),不老倉(秋田),尾去沢(秋田),立又・明又(秋田),阿仁(秋田),荒川・宮田又(秋田),鷲合森(岩手),大堀(山形),永松(山形),大張(山形),高旭(山形),小山(山形),大泉(山形),赤山(山形),八総(福島),日光・木戸ヶ沢(栃木),足尾(栃木),鍋倉(新潟),三川(新潟),草倉(新潟),奥山(静岡),尾小屋(石川),面谷(福井),紀州(三重),妙法(和歌山),河守(京都),生野(兵庫),明延(兵庫),帯江(岡山),吉岡(岡山),尾平(大分) |
鉛・亜鉛鉱 | 伊奈牛(北海道),余市(北海道),大江(北海道),豊羽(北海道),寿都(北海道),八雲(北海道),上国(北海道),舟打(青森),尾太(青森),太良(秋田),尾去沢(秋田),立又・明又(秋田),畑(秋田),大堀(山形),高旭(山形),小山(山形),大泉(山形),八谷(山形),細倉(宮城),大土森(宮城),朝日(葡萄)(新潟),三川(新潟),南越(新潟),吉城・下ノ本(岐阜),尾小屋(石川),面谷(福井),生野(兵庫),明延(兵庫),対州(長崎),藏内尾平(大分) |
タングステン | 女牛(岩手),黄金坪(岩手),清水沢(岩手),世田米(岩手),東磐井(岩手),高取(茨城),西沢(栃木),足尾(栃木),鍋倉(新潟),塩野町【2】)(新潟),鳳【1】)(山梨),倉沢【1】)(山梨),乙女【1】)(山梨),金満寿【1】)(山梨),遠ヶ根1)(岐阜),恵比寿・高根(岐阜),福岡(岐阜),内外海(福井),和知(京都),鐘打【1】)(京都),大谷【1】)(京都),生野(兵庫),明延(兵庫),富久山(岡山),都窪(岡山),内田吉備(岡山),滝鶴・久和不(広島),笹ヶ瀬(島根),重徳(山口),秋穂(山口),金ヶ峠・薬王寺(山口),手島(香川),中村重石(宮崎),新鹿(鹿児島),屋久島(鹿児島),仁田(鹿児島) |
モリブデン | 小馬木(島根),東山(島根),清久(島根),平瀬(岐阜),丸森(宮城),福栄頓(山形),今市(栃木),小黒部(富山),恵比寿(岐阜),遠ヶ根(岐阜),佛性寺(京都),南生口(広島),宝台(福岡) |
アンチモン | 日永(茨城),日産(茨城),八幡(群馬),開生・所沢(長野),金加(岐阜),津具(愛知),神戸(奈良),範多・十津川・高津(奈良),三湯・船原・初湯(和歌山),中瀬(兵庫),高城(島根),彌富(山口),坂根(山口),相生(徳島),牟岐(徳島),富山・寒川(愛媛),市ノ川(愛媛),万年・弘師法(愛媛),富重(愛媛),嵐(愛媛),藤ノ川(高知),上岡(高知),米原・日吉(高知),日昭・妙法(福岡),新馬上(大分),高浜(熊本),久米(熊本),大内平・大内(宮崎),日比谷・日比野・天包(宮崎),四家(宮崎),高城(宮崎),田野(宮崎) |
水銀 | 竜昇殿【3】)(北海道),常呂【3】)(北海道),天塩【3】)(北海道),愛別(北海道),幌加内【3】)(北海道),イトムカ(北海道),置戸【3】)・二幸(北海道),十勝【3】)(北海道),ユーヤンベツ【3】)(北海道),三石(北海道),日高【3】)(北海道),丹生・佐松(三重),大和・小松・東郷(奈良),多武峰【3】)(奈良),千早(大阪),和気【3】)(岡山),由岐(徳島),双葉(愛媛),相ノ浦(長崎),佐伯(大分) |
【鉱脈鉱床産鉱石鉱物】
鉱脈鉱床からは多種多様な鉱物が産出している。いま,主な鉱物を示すと下表の様である。
鉱石名 | 鉱石鉱物 | 化学式 | 含有量(重量%) |
---|---|---|---|
金鉱 | 自然金 | AuXAg1-X(X=0.8~1) | 金88.0~100 (金80~100)【2】 |
エレクトラム | AuXAg1-X(X=0.2~0.8) | 金31.3~88.0 (金20~80)【2】 |
|
カラベラス鉱 | AuTe2 | 金43.6 | |
クレンネル鉱 | (Au,Ag)Te2 | 金36~44 | |
ペッツ鉱 | Ag3AuTe2 | 金25.49 | |
シルバニア鉱 | (Au,Ag)2Te4 | 金24.2 (Au/Ag=1)【3】 |
|
銀鉱 | 自然銀 | AgXAu1-X(X=0.8~1) | 銀68.7~100 (銀80~100)【2】 |
エレクトラム | AgXAu1-X(X=0.2~0.8) | 銀12.0~68.4 (銀20~80)【2】 |
|
ヘッス鉱 | Ag2Te | 銀62.9 | |
エンプレス鉱 | AgTe | 銀45.8 | |
ペッツ鉱 | Ag3AuTe2 | 銀41.7 | |
シルバニア鉱 | (Au,Ag)2Te4 | 銀13.2 (Au/Ag=1)【3】 |
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ナウマン鉱 | Ag2Se | 銀73.2 | |
輝銀鉱(針銀鉱) | Ag2S | 銀87.1 | |
濃紅銀鉱 | Ag3SbS3 | 銀59.8 | |
淡紅銀鉱 | Ag3AsS3 | 銀64.8 | |
脆銀鉱 | Ag5SbS4 | 銀68.3 | |
雑銀鉱 | (Ag,Cu)16Sb2S11 | 銀74.4 (Cu=0) |
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ピアス鉱 | (Ag,Cu)16As2S11 | 銀77.5 (Cu=0) |
|
マチルダ鉱 | AgBiS2 | 銀28.3 | |
輝銀銅鉱 | AgCuS | 銀53.0 | |
ダイアホル鉱 | Pb2Ag3Sb3S8 | 銀23.8 | |
硫セレン銀鉱 | Ag4SeS | 銀79.5 | |
銅鉱 | 輝銅鉱 | Cu2S | 銅79.9 |
斑銅鉱 | Cu5FeS4 | 銅63.3 | |
黄銅鉱 | CuFeS2 | 銅34.6 | |
キューバ鉱 | CuFe2S3 | 銅23.4 | |
安四面銅鉱 | (Cu,Fe,Zn)12Sb4S13 | 銅51.6 (Cu12Sb4S13) |
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砒四面銅鉱 | (Cu,Fe,Zn)12As4S13 | 銅45.8 (Cu12As4S13) |
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硫砒銅鉱 | Cu3AsS4 | 銅48.4 | |
ルソン銅鉱 | Cu3AsS4 | 銅48.4 | |
ファマチナ鉱 | Cu3SbS4 | 銅43.3 | |
鉛鉱 | 方鉛鉱 | PbS | 鉛86.7 |
亜鉛 | 閃亜鉛鉱 | (Zn,Fe)S | 亜鉛67.1(ZnS) |
ウルツ鉱 | (Zn,Fe)S | 亜鉛67.1(ZnS) | |
錫 | 錫石 | SnO2 | 錫78.8 |
黄錫鉱 | Cu2FeSnS4 | 錫27.6 | |
モリブデン鉱 | 輝水鉛鉱 | MoS2 | モリブデン59.9 |
タングステン | 鉄重石 | FeWO4 | W60.5 |
マンガン重石 | MnWO4 | W60.7 | |
鉄マンガン重石 | (Fe,Mn)WO4 | W60.6 (Fe/Mn=1)【3】 |
|
灰重石 | CaWO4 | W73.6 | |
ニッケル鉱 | 針ニッケル鉱 | NiS | ニッケル64.7 |
ヒーズルウッド鉱 | Ni3S2 | ニッケル73.3 | |
ポリジム鉱 | Ni3S4 | ニッケル57.9 | |
ベス鉱 | NiS2 | ニッケル47.8 | |
黄鉄ニッケル鉱 | (Fe,Ni)S2 | ニッケル24.2 (Fe/Ni=1)【3】 |
|
ペントランド鉱 | (Fe,Ni)9S8 | ニッケル34.2 (Fe/Ni=1)【3】 |
|
硫砒ニッケル鉱 | NiAsS | ニッケル35.4 | |
硫安ニッケル鉱 | NiSbS | ニッケル27.6 | |
紅砒ニッケル鉱 | NiAs | ニッケル43.9 | |
紅安ニッケル鉱 | NiSb | ニッケル32.5 | |
バルト鉱 | 輝コバルト鉱 | CoAsS | コバルト35.5 |
方砒コバルト鉱 | CoAs2-3 | コバルト20.8 (CoAs3) |
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サフロ鉱 | (Co,Fe)As2 | コバルト28.2 (CoAs2) |
|
リンネ鉱 | Co3S4 | コバルト58.0 | |
ジーゲン鉱 | (Co,Ni)3S4 | コバルト29.0 (Co/Ni=1)【3】 |
|
コバルトペント ランド鉱 |
(Co,Ni,Fe)9S8 | コバルト48.2 (Co:Ni:Fe=5.43:1:1.20) |
|
ビスマス鉱 | 自然蒼鉛 | Bi | ビスマス~100 |
輝蒼鉛鉱 | Bi2S3 | ビスマス81.3 | |
エンプレクト鉱 | CuBiS2 | ビスマス62.1 | |
ウィチヘン鉱 | Cu3BiS3 | ビスマス42.2 | |
マチルダ鉱 | AgBiS2 | ビスマス54.8 | |
パポン鉱 | AgBi3S5 | ビスマス62.5 | |
ガレノビスム タイト |
PbBi2S6 | ビスマス55.5 | |
リリアン鉱 | Pb3Bi2S6 | ビスマス33.9 | |
コサラ鉱 | CuPb7Bi6S20 | ビスマス36.8 | |
アイキン鉱 | CuPbBiS3 | ビスマス36.3 | |
テルル蒼鉛鉱 | BiTe2S | ビスマス59.3 | |
硫テルル蒼鉛鉱 | Bi2Te3 | ビスマス52.1 | |
アンチモン鉱 | 輝安鉱 | Sb2S3 | アンチモン71.7 |
ベルチェ鉱 | FeSb2S4 | アンチモン28.5 | |
安四面銅鉱 | (Cu,Fe,Zn)12Sb4S13 | アンチモン29.2(Cu12Sb4S13) | |
濃紅銀鉱 | Ag3SbS3 | アンチモン22.5 | |
ミアジル鉱 | AgSbS2 | アンチモン41.5 | |
脆銀鉱 | Ag5SbS3 | アンチモン15.4 | |
ダイアホル鉱 | Pb2Ag3Sb3S8 | アンチモン26.9 | |
車骨鉱 | CuPbSbS3 | アンチモン24.9 | |
ファマチナ鉱 | Cu3SbS4 | アンチモン27.6 | |
輝安銅鉱 | CuSbS2 | アンチモン48.8 | |
毛鉱 | Pb4FeSb5S14 | アンチモン35.4 | |
水銀鉱 | 自然水銀 | Hg | 水銀~100 |
辰砂 | HgS | 水銀86.2 | |
黒辰砂 | HgS | 水銀86.2 | |
リビングストン鉱 | HgSb4S8 | 水銀21.2 |
【熱水網状鉱染鉱床】
割れ目はいわゆる断層(せん断裂罅)や張力裂罅のような規模の大きいものばかりでなく,微細で不規則な網状のものがある。一概にはいえないが,どちらかといえば浅い所にできやすい。また断層や張力裂罅の末端部が細脈化し,網状体になる場合がある。とくに割れ目の上部で,地表に近い所が網状に細脈化し,上拡がりの漏斗状を呈することがよくある。
熱水溶液が網状細脈に浸入して網状鉱床をつくり,周囲の母岩全体にも広く拡散して熱水変質を与えながら,その内部に鉱石鉱物の細粒を散点状に鉱染し,鉱床を形成する。これを熱水網状鉱染鉱床という。
この種の鉱床として金,銀,銅,鉛,亜鉛,錫,タングステン,モリブデン,水銀などの鉱床が知られている。その多くは露天掘りで採掘されている。とくに金鉱床での採掘例が多い。我が国では南薩型金鉱床として知られている(鹿児島県春日,赤石,岩戸鉱山などの金鉱床)。
このような網状鉱染鉱床は金鉱床の多くで採掘されている。チリ,エル・インディオ鉱山はこのような鉱床で高品位の鉱石を盛んに採掘している。
金価格の高騰により,このような金鉱床は低品位であっても,採掘・精錬方法の改良により,今後世界的に開発・採掘される可能性は高い。