マンガン鉱

 マンガンは,鋼(はがね)の強度や硬度など諸性質の向上に欠くことのできない重要な金属で,粗鋼生産の際,マンガンの中間製品であるフェロマンガン(高炭素および中・低炭素)やシリコマンガンの形で,脱酸・脱硫剤として必ず添加される。マンガンの最大の用途はこれであり,20数年前までは野田玉川(岩手),大江,上岡,稲倉石,石崎(以上北海道),加蘇(栃木),浜横川(長野)などをはじめ,中小多数の鉱山が全国的に存在し,マンガン鉱を出荷していた(下図)。

鉱石鉱物

 マンガン鉱の鉱石鉱物は付表のように多数あるが,主なものは酸化鉱物のハウスマン鉱Mn3O4,軟マンガン鉱MnO2,クリプトメレンK(Mn2+,Mn4+)8O16,炭酸塩鉱物の菱マンガン鉱MnCO3珪酸塩鉱物のテフロ鉱Mn2SiO4,バラ輝石MnSiO3,ブラウン鉱Mn2+Mn3+Si8O12 などである。

マンガン(Mn)の主な鉱物
分類名
鉱物名(和) 鉱物名(英) 結晶系 化学組成 含Mn量
(重量%)
硫化鉱物
閃(せん)
マンガン鉱
Alabandite 等軸 MnS 63.1
酸化鉱物
ハウスマン鉱 Hausmannite 正方 Mn3O4 72.0
軟マンガン鉱 Pyrolusite 正方 β-MnO2 63.2
ラムスデル鉱 Ramsdellite 斜方 γ-MnO2 63.2
緑マンガン鉱 Manganosite 等軸 MnO 77.4
ビクスビ鉱 Bixbyite 等軸 Mn2O3 69.6
轟(とどろき)石 Todorokite 単斜 (Mn2+,Ca)Mn4+3O7・2H2O
(Ca,Mg=0.0)
62.8
クリプトメレン Cryptomelane 単斜 K(Mn4+,Mn2+)8O16 59.8
万次郎鉱Manjiroite 正方 (Na,K)(Mn4+,Mn2+)8O16 
キミマン鉱 Pyrochroite 三方 Mn(OH)2 61.8
水マンガン鉱 Manganite 単斜 MnO(OH) 62.5
炭酸塩鉱物
菱マンガン鉱 Rhodochrosite 三方 MnCO3 47.8
珪酸塩鉱物
テフロ石 Tephroite 斜方 Mn2SiO4 54.4
バラ輝石 Rhodonite 三斜 CaMn4Si5O15 34.3
パイロックス
マンガン
Pyroxmangite 三斜(Mn0.8,Fe0.2)SiO3 33.5
ブラウン鉱 Braunite 正方 Mn2+Mn3+6SiO1263.6
満礬柘榴
(まんばんざくろ)石
Spessartine 等軸 Mn3Al2(SiO4)3 33.3
バスタム石 Bustamite 三斜 (Mn,Ca)3Si3O9
(Mn/Ca=3.0) 【1】
32.4
アレガニー石 Alleghanyite 単斜 Mn5(SiO4)2(OH)2 55.7
イネス石 Inesite 三斜 Ca2Mn7Si10O28(OH)2
・5H2O
36.1
  •  オレンジ色太字:主要鉱物
  •  【1】:原子比

国内の鉱床分布図

日本のマンガン鉱床分布図
日本のマンガン鉱床分布図

 マンガン酸化鉱物である軟マンガン鉱やクリプトメレンは,古・中生代の珪岩やチャート中に層状をなして産出する。 概して小規模な鉱床が多いが,その分布は全国的である。 炭酸塩鉱物である菱マンガン鉱は通常,脈状をなし,閃亜鉛鉱や方鉛鉱,ときには銀鉱物を伴う。 北海道西南部後志地方にある大江,稲倉石,檜山地方にある上国,石崎,青森県尾太,山形県森や大泉などの鉱山がそれで,いずれも新第三紀のグリーンタフ地域にみられる。 一方,珪酸塩鉱物のテフロ石,バラ輝石,ブラウン鉱などは野田玉川をはじめ北上山北部の接触変成帯や中生代の晶質珪岩中層状に産し,ハウスマン鉱,キミマン鉱MnO(OH)2,閃マンガンMnSを伴う。 これらの鉱山も1986年頃まで稼行されたが,それ以降は閉山し,マンガン鉱はすべて輸入に頼ることになった。

用途

 輸入鉱は南アフリカ,オーストラリア,ガボン,ガーナ,中国,ベトナムより輸入されたマンガン鉱はフェロマンガン,シリコマンガン,または電解二酸化マンガンなどの中間生産物になり,普通鋼,特殊鋼(工具鋼,構造用鋼,マンガン鋼),乾電池および二次電池,フェライト(磁気材料),酸化剤(過マンガン酸カリなど)の製品として利用されている。
 上記のマンガン鉱のほかに,金属マンガン,フェロマンガン,シリコマンガン,電解二酸化マンガン,四三酸マンガンなどの加工品が輸入され,マンガンの不足を補っている。
 マンガンは製鋼の必需品であるため,産業界に重要な金属である。もしこれが不足すれば非常な事態を招くので,国内消費量の最低60日分を国家備蓄するように定められている。

世界の生産量と埋蔵量

 世界のマンガン鉱の生産量と埋蔵量は下図のようである。

世界のマンガン鉱生産量
世界のマンガン鉱生産量
世界のマンガン鉱埋蔵量
世界のマンガン鉱埋蔵量

鉱床

 マンガン鉱床は,(1)熱水鉱床(鉱脈鉱床),(2)中・古生代の珪岩やチャート中の層状鉱床,(3)ラテライト型マンガン鉱床があり,また(4)層状鉱床が後の時代に広域変成作用を受けた変成マンガン鉱床がある。
 (1)熱水鉱床は比較的小規模であるが,炭酸塩の菱マンガン鉱を主として,閃亜鉛鉱や方鉛鉱,ときには銀鉱物を伴う。

マンガン鉱石の産状(上国鉱山)
熱水鉱床(鉱脈鉱床)産
マンガン鉱石の産状(上国鉱山)
堆積岩中のマンガン鉱層(ブルガリア)
堆積岩中のマンガン鉱層
(ブルガリア)

 (2)層状鉱床は,堆積岩中に局部的にMn 20~30%という高濃度で含まれていることがあり,轟石(とどろきいし),軟マンガン鉱(MnO2),サイロメレーンが採掘される。 玄武岩と珪質岩とに挟まれていることから,玄武岩噴出に伴う海底熱水活動によって沈殿したものと考えられている。 マンガン鉱床は鉱層としてウクライナ,ルーマニア,ハンガリーの黒海周辺地域,ブラジル,ガボン,ガーナ等の南半球大西洋圏と,中国,南アフリカ,オーストラリア,インド等大陸移動前のゴンドワナ大陸と呼ばれる地域に分布している。
 (3)ラテライト型マンガン鉱床はマンガンに富む風化土壌でアフリカの象牙海岸では鉱床として稼行されている。
 (4)変成マンガン鉱床は,(2)のタイプの層状マンガン鉱床が地下深部で広域変成作用(熱や圧力の影響)を受けたもので,マンガンの酸化鉱物が変成してバラ輝石,テフロ石,ハウスマン鉱(Mn3O4),緑マンガン(MnO)などとして産する。

バラ輝石(ピンク)とテフロ石(黒)
層状マンガン鉱床が接触変成作用を
受けて生成したバラ輝石(ピンク)と
テフロ石(黒)(野田玉川鉱山)