タングステン鉱

 タングステンの主要な鉱石鉱物は灰重石CaWO4,マンガン重石MnWO4および鉄重石Fe WO4である。後二者は連続固溶体の鉄マンガン重石(Fe,Mn)WO4として産する(表参照)。 日本には鉱床分布図に示されるように,タングステン鉱床が本州や九州に比較的多く分布している。この分布図には,大戦中,軍需のためタングステン鉱を増産する必要があって,かつて北上山地(岩手県)の金山であった黄金坪,清水沢,世田米,東磐井などのように含金石英脈中の灰重石を採掘した鉱山も記入されている。鐘打(京都),大谷(京都),高取(茨城),喜和田(山口),藤ヶ谷(山口)などでも採掘された。なかでも山口県東部の岩国地域は上記2鉱山のほか玖珂や河山鉱山からもタングステン鉱を産し,日本で最も重要なタングステン地帯であった。
 また明延・生野両鉱山(兵庫)のタングステン鉱物は,石英脈中に鉄重石または鉄マンガン重石,まれに灰重石として,黄銅鉱,斑銅鉱,閃亜鉛鉱,方鉛鉱,錫石,四面銅鉱,自然蒼鉛,輝蒼鉛鉱,硫砒鉄鉱,蛍石,方解石など多くの鉱物と共に産する。しかし,主要産物は銅鉱および錫鉱で,タングステン鉱は副産物として錫精鉱の一部として回収された。錫精鉱中のタングステン品位は2~5%WO3程度であったが,処理量が多いため,タングステンの産額は他のタングステン鉱山をしのぎ,本邦で最も重要な鉱山でもあった。この鉱脈はボリビア型多金属錫タングステン鉱床に属し,足尾,西沢(栃木)の鉱脈の一部もこれに類似する。

藤ヶ谷鉱山における灰重石の産状
藤ヶ谷鉱山における灰重石の産状
明延鉱山の錫・鉄マンガン重石・石英脈
明延鉱山の錫・鉄マンガン重石・石英脈

 1980年頃より輸入鉱の安値と円高の影響で採算が悪化し,1983~1985年に鐘打,大谷および高取が相次いで閉山し,1987年明延,1992年には喜和田,玖珂が休山した。現在国内でタングステン鉱を採掘している鉱山はない。

鉱石鉱物

タングステン(W)の鉱石鉱物
分類名
鉱物名(和) 鉱物名(英) 結晶系 化学組成 含W量
(重量%)
硫化鉱物
タングステン鉱 Tungstenite 六方 WS2 74.1
酸化鉱物
クラソノゴライト Krasnogorite 斜方 WO3 79.3
重石華 Tungstenite 斜方 WO3・2H2O 73.6
タングステン酸塩鉱物
灰重石 Scheelite 正方 CaWO4 63.8
マンガン重石 Heubnerite 単斜 MnWO4 60.7
鉄マンガン重石 Wolframite 単斜 (Fe,Mn)WO4
(Fe/Mn=1) 【1】
60.6
鉄重石 Ferberite 単斜 FeWO4 60.5
  •  オレンジ色太字:主要鉱物
  •  【1】:  原子比

国内の鉱床分布図

日本のタングステン鉱床分布図
日本のタングステン鉱床分布図

用途

 タングステンは金属中最も融点(3410℃)が高く,高温での硬度や耐熱性に優れ,超硬合金・工具類(国内需要の約60%),高速度鋼などの特殊鋼(需要の約20%),照明,電気・電子機器の部品,接点,電気抵抗材料,電気化学用電極,石油化学用触媒,高温電気炉のヒーターなど(需要の約17%)に広く用いられている(付表用途参照)。
 タングステンは上記のように産業上重要な金属であるので,万一の国際情勢の急変に対処できるように,国内消費量の最低60日分を国家備蓄すると定められている。

輸入

 現在タングステンは純金属のタングステン(塊,線,棒,屑など)のほか,中間製品のフェロタングステン,シリコタングステン,三酸化タングステン(WO3),タングステンカーバイド(WC)(粉)およびタングステン酸塩化合物:タングステン酸カルシウム(CaWO4),パラタングステン酸アンモニウム(ATP5(NH4)2O・12WO3・5H2O)などとして,すべて中国,インド,アメリカ,韓国,オーストラリア,ドイツなど海外からの輸入に頼っている。なかでも中国は世界の生産量の75%(2007年金属タングステンに換算,41.0千トン)を産し,その埋蔵量も世界の67%(金属タングステンに換算42,000千トン)を有する。今後も中国の影響が大きい。

世界の生産量と埋蔵量

世界のタングステン鉱生産量
世界のタングステン鉱生産量
世界のタングステン鉱埋蔵量
世界のタングステン鉱埋蔵量

鉱床

 タングステン鉱床は花崗岩体の中またはその周辺に限って発達することから,花崗岩マグマに関連した高温ないし中温の熱流体から生成したと考えられている。鉱床としては,ペグマタイト脈型鉱床,スカルン鉱床(接触交代鉱床),熱水鉱脈鉱床,および砂(漂砂)鉱床などがある。
 鉱石品位は1%(三酸化タングステンWO3として)以下のものが多い。通常,脈状形態を示すペグマタイト鉱床,熱水成鉱床には鉄マンガン重石を主とするものが多く,しばしば錫石を伴う。
 スカルン鉱床は灰重石を主とし,黄鉄鉱,黄銅鉱などを伴い,脈石鉱物は灰鉄輝石などのスカルン鉱物からなる。世界的には,中国の山西省および江西省,ミャンマー,カザフスタン,ロシアのトランスバイカル,ボリビアなどに産出が多い。大規模なペグマタイトやスカルン鉱床としては,韓国の上東鉱山,アメリカ西部のシエラ・ネバダ地域,オーストラリア南東部のキング島などが有名である。

ボリビアChojlla鉱山産鉄マンガン重石・錫石・石英のペグマタイト質鉱脈
ボリビアChojlla鉱山産鉄マンガン重石・錫石・石英のペグマタイト質鉱脈
韓国上東鉱山産石英,鉄マンガン重石の産状
韓国上東鉱山産石英,鉄マンガン重石の産状

 中国江西省南部の大余地域には,中生代ジュラ紀の花崗岩体があり,これに関連してタングステンを産する熱水石英脈鉱床が多数発達する。なかでも,西華山鉱床は約600本の石英脈より構成され,走行方向の延長距離は最大で1000メートル余り,平均で約250メートルである。また,脈幅は最大で4 メートル,平均0.5メートル程度である。産出鉱物は,鉄マンガン重石,灰重石のほかに錫石を伴う。