ビスマス鉱

 ビスマスは主に元素鉱物の自然蒼鉛(そうえん)や硫化鉱物の輝蒼鉛鉱として産出する。 その他,付表のように多種類の硫化鉱物やテルル化鉱物として産出するが,いずれも稀産鉱物であり,採掘の対象とはならない。 しかしながら,これらのビスマス鉱物は多くの場合金,銀,銅,鉛,モリブデン,錫,タングステンなどの鉱石中に随伴されて少量産するため,製錬の過程で副産物として回収される。

鉱石鉱物

ビスマス(Bi)の主な鉱石鉱物
分類名
鉱物名(和) 鉱物名(英) 結晶系 化学組成 含Bi量
(重量%)
元素鉱物
輝蒼鉛鉱Native bismuth 斜方 Bi 95-100
硫化鉱物
輝蒼鉛鉱 【1】 Bismuthinite 斜方 Bi2S3 81.3
幌別鉱 Horobetsuite 斜方 BiSbS3 49.0
エムプレクト鉱 Emplectite 斜方 CuBiS2 62.1
ウイチヘン鉱 Wittichenite 斜方 Cu3BiS3 42.2
マチルダ鉱 Matildite 三方 AgBiS2 54.8
ガレノビスムタイト Galenobismutite 斜方 PbBi2S4 54.8
リリアン鉱 Lillianite 斜方 Pb3Bi2S6 33.9
ヘイロフスキー鉱 Heyrovskyite 斜方 Pb6Bi2S9 21.4
コサラ鉱 Cosalite 斜方 CuPb7Bi8S20 38.2
アイキン鉱 Aikinite 斜方 CuPbBiS3 36.3
テルル化鉱物
テルル蒼鉛鉱 Tellurobismuthite 三方 Bi2Te3 52.2
硫テルル蒼鉛 Tetradymite 三方 Bi2Te2S 59.3
ボリンスキー鉱 Volynskite 三方 AgBiTe2 36.5
  •  オレンジ色太字:主要鉱物
  •  【1】:輝蒼鉛鉱は輝安鉱(Sb2S3)との間で連続固溶体をつくる。Bi/Sb = 1.0(原子比)付近のものを別称,幌別鉱ともいう。

国内の鉱床分布図

日本のビスマス鉱床分布図
日本のビスマス鉱床分布図

 国内の鉱山でビスマス鉱物を産した鉱床は,すでに示した金銀,銅,鉛・亜鉛,錫,タングステンなどの諸鉱山の鉱床と重複する。例えば,

  • 金および銅の鉱石を主とする足尾,大張,長登,薬王寺
  • 鉛・亜鉛鉱を主体とする神岡,中竜,対州,小坂,花岡
  • 錫,タングステン,銀の鉱石を産する生野,明延,西沢,尾平,揚ノ沢

などである。
 ビスマスの国内生産は鉱石(精鉱)としてではなく,鉛製錬の副産物である鉛電解スライムから生産される。

用途

 ビスマスの融点は271.3℃と低い。錫,鉛などとの低融点合金として,はんだ,ヒューズ,火災報知器などに用いられている。また,純金属として,放射線遮断器,減摩剤,冶金添加剤(可鍛鋳鉄,快削合金,金型)などに,さらに,化合物として,医薬品(整腸剤),防腐剤,顔料などにも用いられている。

輸入

 2007年のビスマスの国内生産量は996トン(金属ビスマス換算量)であった。また,海外からは,主としてビスマス金属として輸入されている。同年の主要な輸入国及び量(金属ビスマス換算量)は,中国 599トン(全換算輸入量の60%),ペルー 232トン(同23%),韓国44トン(同4%)であった(JOGMEC鉱物資源マテリアルフロー2009年)。

世界の生産量と埋蔵量

 世界におけるビスマス鉱の生産量および埋蔵量ともに中国が55.6%および69.1%と断トツで,ペルー,メキシコ,ボリビアなど限られた国に偏在している。

世界のビスマス鉱生産量
世界のビスマス鉱生産量
世界のビスマス鉱埋蔵量
世界のビスマス鉱埋蔵量

鉱床

銅・ビスマス鉱脈
ボリビアTasna鉱山に見られる
銅・ビスマス鉱脈

 ほとんどのビスマス鉱物は銀・鉛・銅・亜鉛・タングステン鉱石など熱水鉱脈鉱床中に随伴鉱物として産出する。 ビスマス鉱床は 錫・タングステン鉱物と共生してビスマス鉱物を産する鉱床とか, 銀・ニッケル・コバルト・ビスマス鉱床などを指す。