水銀鉱

 水銀を含有する鉱石鉱物は下表のようであるが,そのうち自然水銀と辰砂(しんしゃ)が水銀の主な原料である。この両者は鉱石中しばしば共存する。例えばアメリカ,ネバダ州スティームボードの噴気・熱水から生じた辰砂は玉髄質石英に伴われ,微細粒の自然水銀と共生している。北海道イトムカや竜昇殿から産出した高品位の辰砂はやや多量の自然水銀を伴っていた。

鉱石鉱物

水銀(Hg)の鉱石鉱物
分類名
鉱物名(和) 鉱物名(英) 結晶系 化学組成 含Hg量
(重量%)
元素鉱物
自然水銀 Native mercury 三方 Hg 100.0
硫化鉱物
辰砂 Cinnabar 三方 HgS 86.2
黒辰砂 Metacinnabar 等軸 HgS 86.2
リビンストン鉱 Livingstonite 単斜 HgSb4S8 21.2
塩化鉱物
角水銀鉱 Calomel 正方 HgCl 85.0
酸化鉱物
モントロイ石 Montroynite 斜方 HgO 92.6
  •   オレンジ色太字:主要鉱物

国内の鉱床分布図

日本の水銀鉱床分布図
日本の水銀鉱床分布図

 国内の水銀鉱山は北海道および奈良県や三重県に多く分布し,いずれも熱水鉱床(浅熱水性鉱脈鉱床)を稼行した。 北海道イトムカや竜昇殿鉱山などは高品位の鉱石を産した。また奈良県や三重県の水銀鉱山は縄文時代から採掘されてきた鉱山である。いずれの鉱山も現在では採掘していない。

用途

 水銀は理化学機器用(温度計,体温計,水銀灯など),電気機器,鉱工業用(アマルガム製錬,アマルガムめっき,有機合成の触媒,塗料など),医薬用品(消毒,下剤,農薬など),歯科用品(銅,銀,錫アマルガム)など広く用いられたが,最近では生物に対する有毒と環境保全の問題などから使用が控えられている。

鉱床

 水銀の世界での分布は一様ではなく,火山国でしか産出しない。火山の多い日本はかつて世界有数の水銀産出国であった。
 水銀の鉱山としては,スペインのシウダ・レアルにあるアルマデン鉱山が有名で,古代ローマの紀元前372年からアラブ時代,そして現在に至るまで辰砂及び自然水銀を産出していたが,2004年7月に生産を停止した。日本では,北海道イトムカ鉱山や,古代から産出記録がある丹生鉱山が知られており,自然水銀の産出が多いことでも有名であった。しかし,現在では世界の水銀鉱山は全て操業を廃止し,まったく生産されていない。