コバルト鉱

 コバルトの鉱石鉱物は下表に示されているが,主な鉱物はリンネ鉱Co3S4,輝コバルト鉱CoAsS,グローコドート鉱(Co,Fe)AsS,砒コバルト鉱(Co,Ni)As3-xなどである。現在,コバルトを主対象に採掘している鉱山は無い。アフリカ,コンゴ民主共和国の南部よりザンビア北部に至るカッパーベルト(幅50km,長さ320km)の砂岩層中には赤銅鉱,孔雀石,藍銅鉱,自然銅を含有する銅鉱層があり,この鉱石中にコバルトが含有されている。このカッパーベルトから採掘,製錬されるコバルトの生産量は世界の50.2%(2007年)で,世界第1位である。その埋蔵量も42%で,世界最大のコバルト資源である。

鉱石鉱物

コバルト(Co)の鉱石鉱物
分類名
鉱物名(和) 鉱物名(英) 結晶系 化学組成 含Sb量
(重量%)
硫化鉱物
ジャイプライト Jaipurite 六方 CoS 64.8
リンネ鉱 Linnaeite 等軸 Co3S4 58.0
カティエライト Cattierite 等軸 CoS2 47.9
ジーゲン鉱 Siegenite 等軸 (Co,Ni)3S4
(Co/Ni)=1 【1】
29.0
カロール鉱 Carrollite 等軸 Cu(Co,Ni)2S4
(Co/Ni)=3 【1】
28.6
コバルトペントランド鉱 Cobaltpentlandite 等軸 (Co,Ni,Fe)9S8
(Co:Ni:Fe=7:1:1) 【1】
52.6
輝コバルト鉱 Cobaltite 斜方 CoAsS 35.5
グローコドート鉱 Glaucodot 斜方 (Co,Fe)AsS
(Co/Fe=3) 【1】
12.0
砒化鉱物
方砒(ほうひ)コバルト鉱 Skutterudite 等軸 CoAs2-3
(CoAs3)
20.8
サフロ鉱 Safflorite 斜方 (Co,Fe)As2
(CoAs2)
28.2
モデライト Modderite 斜方 (Co,Fe)As
(Co/Fe=3)【1】
33.2
ランギサイト Langisite 六方 (Co,Ni)As
(Co/Ni=3)【1】
33.0
酸化鉱物
ヘテロゲナイト Heterogenite 六方 CoO(OH) 64.8
コバルト華 Erythrite 単斜 Co3(AsO4)2・8H2O 29.5
  •  オレンジ色太字:主要鉱物
  • 【1】 : 原子比

国内の鉱床分布図

日本のコバルト鉱床分布図
日本のコバルト鉱床分布図

 わが国では,戦時中コバルト鉱の開発が進められた。いずれも小規模で,長登(山口)のコバルト鉱石を除いて品位が低い。堂ヶ谷(奈良)からはグローコドート鉱,大勝(和歌山)からはグローコドート鉱,含コバルト硫砒鉄鉱(Co4%以下),三陽(和歌山)からは輝コバルト鉱,グローコドート鉱,含コバルト硫砒鉄鉱,鳳来(山梨)からは含コバルト硫砒鉄鉱,千代ヶ原(岩手)からは含鉄輝コバルト鉱を産した。これらの鉱山は長登を除いて,すべて終戦後廃山となった。長登(山口)は古く奈良時代より銅山として栄え,1908年(明治41年),輝コバルト鉱が発見されてから,副産物としてコバルト鉱も開発の対象となり,大戦中はコバルトの重要鉱山に指定され,業界の注目を引いた。輝コバルト鉱のほか,砒コバルト鉱,含コバルト硫砒鉄鉱,コバルト華などのコバルト鉱物を産し,石英,灰鉄輝石と共生する。この南方にある金ヶ峠でも黄銅鉱とともに含コバルト硫砒鉄鉱を産し,東隣の薬王寺では石英電気石脈中黄銅鉱,自然蒼鉛,輝蒼鉛鉱とともに少量の輝コバルト鉱を産出した。1960年,長登(野上鉱業),金ヶ峠ともに休廃山となり,その後,コバルトの鉱石は日本では産出していない。

用途

 コバルトは特殊鋼(耐熱耐摩耐蝕鋼,高速度鋼,超硬工具鋼)の精製に不可欠の金属で航空機のジェットエンジン,ガスタービン,自動車,ロケット,超硬切削工具(スーパーアロイ),強磁性合金(永久磁石:アルニコ磁石)など広範囲に利用される。
 最近,二次電池の開発・改良がめざましいが,これは特にノートパソコン,携帯電話,デジタルカメラなどに必要なリチウムイオン電池の利用が急増したためで,コバルト国内需要の約67%がこのリチウム電池の原料に使用されている。石油化学,特に重油の脱硫および石油精製の触媒,ガラス・陶磁器の着色(コバルトブルー)として窯業や印刷の顔料,放射性同位元素コバルト60による非破壊検査の放射線,ガン治療などに利用されている。
 コバルトは上記のように産業上重要性の高い金属であるため,万一の国際情勢の急変に対する安全保障策として国内消費量の最低60日分を国家備蓄すると定められている。

輸入

 コバルト鉱石は現在輸入されていない。海外からの金属,合金の地金(塊,粉末,屑)や酸化物,水酸化物の形で輸入する一方,リサイクルによるコバルトが使われている。2007年外国から輸入した金属地金などのコバルト原料はEU(37%),アメリカ(6%),中国(5%),台湾(2%),韓国(2%),その他(49%),合計14,676トン(金属コバルトに換算値)である(JOGMEC鉱物資源マテリアル・フロー2009年)。

世界の生産量と埋蔵量

 世界における国別の生産量と埋蔵量(2007年)は図のようで,上記のコンゴが生産量,埋蔵量とも断トツの1位で,これに次ぐ主要国はオーストラリア,キューバ,ザンビア,カナダ,ロシア,ニューカレドニアなどの諸国となり,このコバルト資源もアフリカ,オーストラリア,北米に偏在している。

世界のコバルト鉱生産量
世界のコバルト鉱生産量
世界のコバルト鉱埋蔵量
世界のコバルト鉱埋蔵量

鉱床

カナダ,オンタリオ州Cobalt地域,Silver Field鉱山の銀・コバルト・ニッケル鉱脈
カナダ,オンタリオ州Cobalt地域,Silver Field鉱山の銀・コバルト・ニッケル鉱脈

 上記のように,コバルトのほとんどは銅,鉛,亜鉛,銀・ニッケル鉱石などの副産物として精錬の過程で回収されている。
 コバルトの供給源として重要な鉱床は,1. 堆積性含コバルト銅鉱床,2. 含コバルト・ニッケル銅鉱床やある種の鉛・亜鉛・銀(銅)鉱床,3. ラテライト型ニッケル鉱床等がある。 いずれもコバルトは微量成分として含まれているため,鉱石の精錬過程で副産物として回収されている。

  1. 堆積性含コバルト銅鉱床は,上記のようにアフリカ中央部のカッパーベルト地帯に分布する。 この鉱床は先カンブリア紀末の砂岩や砂質頁岩中に発達した層状銅鉱床で,この銅鉱石中に微量のコバルトが含まれている。
  2. 含コバルト・ニッケル銅鉱床としては,カナダ,オンタリオ州のCobalt鉱山の鉱脈鉱床が良く知られている。 鉱床は方解石脈中に自然銀や輝銀鉱を含む銀鉱脈であって,銀を主対象に鉱山開発がなされてきたが,同時に微量のコバルトやニッケル鉱物を伴う点で特異な鉱床である。 コバルト鉱物としては,砒コバルト鉱,輝コバルト鉱,紅砒ニッケル鉱の産出が報告されている。 同様な鉱床としてSudbury(カナダ)やNorilsk(ロシア)のニッケル銅鉱床,Broken Hill (オーストラリア)の鉛・亜鉛・銀鉱床,Bawdwin(ミャンマー)の鉛・亜鉛・銅鉱床等があるが,これらの鉱床のコバルト含有量はさらに低い。
  3. ラテライト型ニッケル鉱床は超塩基性岩の風化によって形成される。 Murrin鉱床(オーストラリア)では,鉱体上部の粘土化帯中にマンガン酸化物とともに酸化コバルト鉱物(Absolite)や水酸化コバルト鉱物(Heterogenite)が産する。 埋蔵量は約3億トンで,平均品位は1.0% Ni, 0.064% Coである。