硫黄および硫化鉄鉱

 下表に硫黄や硫化鉄鉱の鉱石鉱物が示されている。 かつては自然硫黄や黄鉄鉱FeS2が硫酸や硫酸アンモニウムの原料であった。 しかし,戦後,石油の精製工程で不可欠な脱硫処理によって硫黄が副次的に生産されるようになり,また石炭や銅,鉛,亜鉛の製錬による排ガスから硫酸が製造されるようになり,そのために日本では硫黄や黄鉄鉱は全く使用されなくなった。 1972年には,硫黄鉱山や硫化鉄の鉱山はすべて廃山となった。

鉱石鉱物

硫黄(S)および硫化鉄(硫酸原料)の鉱石鉱物
分類名
鉱物名(和) 鉱物名(英) 結晶系 化学組成 含S量
(重量%)
元素鉱物
自然硫黄 Native sulfur 斜方 S 100.0
硫化鉱物
黄鉄鉱 Pyrite 等軸 FeS2 53.4
白鉄鉱 Marcasite 斜方 FeS2 53.4
  • 硫酸製造のために燃焼された黄鉄鉱の残滓は酸化鉄(赤鉄鉱)であったので顔料(べんがら,赤色)として利用された。

国内の鉱床分布図

日本の硫黄鉱床分布図
日本の硫黄鉱床分布図

 日本には活火山が多く,火口付近に昇華物として露出する自然硫黄を露天掘りにより容易に採掘することが可能であった。そのため古くから硫黄の生産が行われていた。早くも8世紀の「続日本紀」には,信濃国(長野県米子鉱山)から朝廷へ硫黄の献上があったことが記されている。
 鉄砲の伝来により,火薬の原料としての必要性から日本各地の硫黄鉱山の開発が活発になった。江戸時代には付け木(松や杉の薄い木片の先に硫黄を塗りつけたもの)が造られ火を起こすのに用いられた。明治時代の産業革命時に至り,硫黄鉱山の開発は本格化した。
 純度の高い国産硫黄は,マッチの材料として珍重され,海外に大量に輸出されたため各地の鉱山開発はさらに拍車が掛かった。1889年には知床硫黄山が噴火と共にほぼ純度100 %の溶解硫黄を大量に噴出した。硫黄は沢伝いに海まで流下したが,当時未踏の地だったその地に鉱業関係者が殺到したという。
 1950年代の朝鮮戦争時には,硫黄価格がつり上がり「黄色いダイヤ」と呼ばれ,鉱工業の花形にまで成長した。1950年代後半になると資源の枯渇に加え,石油の脱硫装置からの硫黄生産が可能となり,生産方法は一変する。エネルギー転換に加え,大気汚染の規制が強化されたことから,石油の副生成物である硫黄の生産も急増。硫黄の生産者価格の下落は続き,1970年代には国内の硫黄鉱山は,全て閉山に追い込まれた(岩手県の松尾鉱山など)。現在,国内に流通している硫黄は,全量が脱硫装置起源のものである。

用途

 硫黄から製造される硫酸は化学工業上,最も重要な酸である。一般的に酸として用いられるのは希硫酸,脱水剤や乾燥剤に用いられるのは濃硫酸である。種々の硫黄を含んだ化合物が合成されている。
 硫黄は黒色火薬の原料であり,合成繊維,医薬品や農薬,また抜染剤などの重要な原料であり,さまざまな分野で硫化物や各種の化合物が使用されている。
 農家における干し柿,干しイチジクなどの漂白剤には,硫黄を燃やして得る二酸化硫黄が用いられる。ゴムに数%の硫黄を加えて加熱すると弾性が増し,さらに添加量を増やすと硬さを増して行き,最終的にはエボナイトとなる。

鉱床

九重山の自然硫黄
九重山の自然硫黄

 深海では熱水噴出口付近で鉄などの金属と結合した硫化物や温泉では硫黄が昇華した硫黄華や,湯の花としてコロイド状硫黄が見られ,白く濁って見える。
 火山性ガスには硫化水素,二酸化硫黄が含まれ,それが冷えると硫黄が析出する。これを応用したのが昇華硫黄製造であり,噴気孔から石やレンガで煙道を造り,内部に適宜石を入れて,この石に昇華した硫黄を付着させる採取法であった。十勝岳や九重山などの活火山ではこのような方法で硫黄採掘に従事する鉱山が点在していた。