付表にみられるように多くの含ニッケル鉱石鉱物が知られているが,ペントランド鉱(Fe,Ni)9S8,紅砒ニッケル鉱NiAs,含ニッケル磁硫鉄鉱(Fe,Ni)1-xS および珪ニッケル鉱Ni6Si4O10(OH)8がニッケルの主な原料として使用されている。そのうちペントランド鉱など前3者が金属ニッケル,珪ニッケル鉱がフェロニッケルの原料となる。世界的な規模のニッケル鉱床としてはカナダオンタリオ州Sudbury,中国青海省金川(Jinchun),ロシアシベリア(北極圏)Norilskなどがある。いずれもペントランド鉱や含ニッケル磁硫鉄鉱を含み黄銅鉱,斑銅鉱,キューバ鉱,磁鉄鉱,白金族鉱物(PGM)を伴う。したがって,ニッケルだけでなく,銅鉱および白金族金属鉱物も同時に採掘されている。
分類名 | ||||
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鉱物名(和) | 鉱物名(英) | 結晶系 | 化学組成 | 含Ni量 (重量%) |
元素鉱物 | ||||
アワルワ鉱 | Awaruite | 等軸 | Ni2Fe-Ni3Fe | 68-76 |
テーナイト | Taenite | 等軸 | (Ni,Fe) | 24-77 |
硫化鉱物 | ||||
針ニッケル鉱 | Mellerite | 三方 | NiS | 64.7 |
ヒーズルウッド鉱 | Heazlewoodite | 三方 | Ni3S2 | 73.3 |
ポリジム鉱 | Polydimite | 等軸 | Ni3S4 | 57.9 |
ベス鉱 | Vaesite | 等軸 | NiS2 | 47.8 |
黄鉄ニッケル鉱 | Bravoite | 等軸 | (Fe,Ni)S2 (Ni/Fe=1) 【1】 | 24.2 |
ビオラル鉱 | Violarite | 等軸 | Ni2FeS4 | 38.9 |
含ニッケル磁硫鉄鉱 | Ni-bearing pyrrhotite | 六方 | (Fe,Ni)1-xS | 0.2-4.3 |
ペントランド鉱 | Pentlandite | 等軸 | (Fe,Ni)9S8 | 34.2 |
幌満鉱 | Horomanite | 正方 | Ni6Fe3S8 | 22.9 |
苣木(すがき)鉱 | Sugakiite | 正方 | CuFe6Ni2S8 | 14.6 |
様似鉱 | Samaniite | 正方 | Cu2Fe5Ni2S8 | 15.0 |
硫砒(りゅうひ)ニッケル鉱 | Gersdorffite | 等軸 | NiAsS | 35.4 |
硫安ニッケル鉱 | Ulmannite | 等軸 | NiSbS | 27.6 |
硫化鉱物,アンチモン化鉱物 | ||||
紅砒(こうひ)ニッケル鉱 | Nickeline | 六方 | NiAs | 43.9 |
方砒(ほうひ)ニッケル鉱 | Nickel-skutterudite | 等軸 | (Ni,Co)As2-3 (NiAs3) | 20.7 |
ランメルスベルク鉱 | Rammelsbergite | 斜方 | NiAs2 | 28.1 |
紅安ニッケル鉱 | Breithauptite | 六方 | NiSb | 32.5 |
酸化鉱物 | ||||
ニッケル華 | Annabergite | 単斜 | (Ni,Co)3(AsO4)2・8H2O Ni3(AsO4)2・8H2O | 29.4 |
珪ニッケル鉱(ガーニエライト) | ||||
ヌポア石 | Nepouite | 斜方 | Ni6Si4O10(OH)8 | 46.3 |
ペコラ石 | Pecoraite | 単斜 | Ni6Si4O10(OH)8 | 46.3 |
現在,日本にはニッケルを産する鉱山は皆無である。 鉱床分布図に示したものの多くは戦時中軍需のため採算を度外視して採掘した鉱山である。 北海道の幌満からはペントランド鉱,ポリジム鉱,含ニッケル磁硫鉄鉱,十勝からはペントランド鉱,長野県天竜からはペントランド鉱,黄鉄ニッケル鉱,含ニッケル磁硫鉄鉱,黄銅鉱,兵庫県大屋(夏梅)からは硫砒ニッケル鉱,紅砒ニッケル鉱,針ニッケル鉱などを産した。 いずれも小規模の鉱体である。
ニッケルはステンレス鋼や高抗張鋼,耐熱鋼,合金工具,機械構造用合金などの特殊鋼に使用されている。これらは自動車用鋼板,ヘリコプターおよび航空機の部品,ジェットエンジン,鉄道の車両,自転車部品,家電,電子・通信機器,リードフレームなどの電子部品,磁性材料(モーター,ロボット,パソコン,スピーカー,情報記録部品),電池(ニッケル・水素電池,燃料電池)や太陽電池パネル部品,熱交換器,石油化学プラントの機器,部品,容器などに利用されている。また,石油精製の触媒やフェライト,建材,ガラス部品などにも使われているの。 このように,わが国の産業上重要な金属であるため,万一の安全保障策として国内消費量の最低60日分を国家備蓄すると定められている。
現在,ニッケル鉱のほかにニッケルマット,ニッケル塊,ニッケル合金塊,フェロニッケル,酸化ニッケル,ニッケル屑など全てのニッケル原料が海外から輸入されている。そのうちニッケル鉱(2007年4,221トン)はインドネシア,ニューカレドニア,フィリピンから輸入され,中間製品のフェロニッケルが生産されている。
2007年における世界のニッケル鉱の生産量や埋蔵量が図に示されている。オーストラリア,ロシア(シベリア),カナダ,インド,キューバ,ニューカレドニアなどの国々に偏在する金属資源であることが分かる。
ニッケル鉱床は,マグマ鉱床と風化残留鉱床の2つに大別される。
マグマ鉱床はカナダ,オンタリオ州Sudbury,中国青海省金川,ロシア,シベリアNorilskなど,主としてペントランド鉱や含ニッケル磁硫鉄鉱を採掘している。ふつう黄銅鉱,斑銅鉱,キューバ鉱,磁鉄鉱,白金族鉱物を伴う。この種の鉱山はフィンランドからシベリアにかけても点在して見られる。
マグマ鉱床は超塩基性貫入岩体の底面付近に濃集した含ニッケル銅硫化物からなる。カナダ,オンタリオ州のSudbury鉱床はその代表的なもので,円盤ないし皿状の形(約60 km×30 km, 厚さ1.5 km)を示す超塩基性貫入岩体の最下底部にニッケル鉱床は層状に集積している。総埋蔵量は9.3億トンと見積られているが,そのうち5億トンがすでに採掘済みである。平均品位はニッケル3.5%,銅 2%を示す。40以上の鉱山によって採掘されてきたが,最近は大規模開発によって低品位鉱(ニッケル1%)まで採掘されている。
最近,フィンランドのニッケル鉱山が注目を浴びている。それは,2008年に生産を開始したTalvivaara鉱山で,同国のほぼ中央部に位置している。鉱床は含ニッケル・亜鉛・銅硫化物鉱体で,黒色片岩(約20億年)中に層状に挟まれている。埋蔵量は15.5億トン,平均品位はニッケル0.22%,亜鉛0.49%である。採掘はオープンカット(露天掘り)で行われ,採掘鉱石はすぐそばに山積みされてバイオ・ヒープリーチング法によりニッケル等の金属が抽出されている。鉱床の成因については,近くにあるオートクンプ型含コバルト・銅硫化物鉱床との類似性から,マントル起源の超塩基性岩と密接に関連したマグマ鉱床と考えられる。
今一つはニッケルを含む超塩基性岩が風化し,種々の成分が流出するが,ニッケル成分が珪ニッケル鉱として残留している,風化残留鉱床である。これらはニューカレドニア,オーストラリア東部などの熱帯地域に多くみられる。
また小規模ではあるがカナダ,オンタリオ州Cobalt地域には,高品位の銀・コバルト・ニッケル鉱脈鉱床があり,古くから採掘されてきている。