砒（ひ）素を含有する鉱石鉱物は付表に示されているようであるが，このうち金属砒素や亜砒酸の原料として，主に硫砒鉄鉱FeAsS，一部雄黄As₂S₃および鶏冠石AsSが用いられる。
 硫砒鉄鉱は黄銅鉱，黄鉄鉱，硫砒鉄鉱，磁硫鉄鉱，錫石，黄錫鉱，鉄マンガン重石，閃亜鉛鉱，方鉛鉱などと共に産する。これらの鉱石を製錬するとき，鉱石中の砒素は煙灰から亜砒酸として回収される。戦前，亜砒酸は硫砒鉄鉱に富む鉱石を焙焼して生産し，飛散した亜砒酸がその後，公害問題となった。

日本の砒素鉱床分布図

 金属砒素は鉛，銅などの金属の耐蝕，耐熱や硬質改良添加物，金属間化合物半導体(GaAs,InAs)，発光ダイオード(GaAs)，ガラス，顔料などに用いられる。三酸化二砒素を含む農薬，防腐剤は有毒のため使用が禁止されている。

アメリカ，ネバダ州Steamboatの火山ガスから昇華生成物として晶出している雄黄

 砒素の有毒性のため，現在砒素鉱石の採掘のための鉱床は皆無である。銅精錬過程で副産物として若干回収はなされている。しかし，砒素化合物は昇華温度が低いため，煙害防止の方策に各精錬所は苦慮している段階である。さらに，砒素化合物は水溶性のため，硫砒鉄鉱などを多く産した鉱山からの排水処理にも砒素公害防止のためいろいろな工夫がなされている。
 多くの温泉水にも若干含まれているが，環境基準が厳しくこれを防止する方策がいろいろ考えられてはいるが，現在有効な対策は行われていない。
火山性ガスや高温の温泉水から出るガス中にも微量含まれており，昇華物としても産出している。